ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

NODA・MAP「贋作 桜の森の満開の下」2018年10月27日北九州芸術劇場ソワレ感想

気がついたら師走に入ってましたよびっくりだ。

そろそろはてなダイアリーに置いているログの移行を開始したので、そのうちプロフィールにのっけます。途中からツイログオンリーになったけど、ライフログみたいなものなので残しておこうかなと。

 

ということで、観劇感想をぼちぼち。

 

 初演は平成元年というこの作品、実は名前しか知らず、TLで色々な方が「チケットが取れない」と言っていて、私も先行応募したら見事に落ち。

 北九州公演の一般発売にトライしたら、3階席が1枚だけ残っていたので、慌てて確保したのでした。

 

 観終わって一番に抱いたのは、「これをもっと若い時に観ていれば……!」という、後悔とも安堵ともつかない感情。そこから、なかなか感想を文字に起こせないまま、今に至ってしまったわけですが。

 

 ペダンティック押韻の美しい、意味のあるようなないような台詞の数々。ただただ精緻なセットと散る桜。板の上を覆う大きな紙と、それを突き破って出てくる鬼たち。生と死の境目が曖昧な世界の中で、少女であり悪女であり、恐怖を感じるほどに美しいファムファタールであるところの夜長姫・深津絵里が、運命に魅入られた耳男・妻夫木聡に投げかける言葉は同時に観客への問いかけのようでもあり。

 クライマックス、夜長姫に手をかけ、桜を骸に被せながら身も世もなく嘆く姿があまりにも痛々しくて、引きずられるように泣きながら、「ああ、もっと早くに観たかった」と思ったし、今、観られてよかったとも思ったし。多分、これをもっと若い頃に観ていたら、完全に板の上の魔物に魅入られていただろうから。

 

 ポスト・モダンという言葉がまだ力を持っていたであろう頃に書かれた戯曲は、おそらく私では簡単に理解出来ないような沢山の知性に満ち溢れていて(観たときは監獄の誕生くらいしかわからなかったので、そのうち戯曲を読みたい)、どこか懐かしくて、今はもう遠い、平成とともに消えゆくものを惜しむような、振り返るような、上演時期も含めてとても時流に乗った、そういう部分も含めて、伝説の芝居なんだろうなと。役者としての野田秀樹はちょこちょこと見る機会があったんだけど、劇作家として、本当に天才なんだなあ。

 

 深津絵里は圧巻だった。もう本当にすごい。特に声の色が鮮やかに変わる瞬間、その恐ろしさに震え上がるのだけれど、次の瞬間には子供のような舌足らずの高い声を上げて笑う、その表現の幅に、まるで耳男のように惚れてしまいそうだった。耳男の妻夫木くんは、舞台映えする演技を探っている最中なんだろうなと思ったんだけど、夜長姫を想う気持ちの強さが痛々しくて、気持ちを思い切り引っ張られた。

 男役としてオオアマを演じた天海祐希もまた素晴らしくて。威厳と野望と、抱えた闇の艶やかさ。

 軽やかな古田新太、鬼になった名人達・藤井隆大倉孝二達の賑やかさ。

 

 クライマックスで降りしきる花吹雪は、3階から観ても圧巻で、今思い出してもため息をつくような、狂気と悲しみと美しさに満ちた瞬間だったなあ。

 

 今もうまく言葉には出来ないんだけど、花びらの下に埋まっている夜長姫の骸は、いつか骨になってしまっても、さぞかし美しいんだろうと、妙に感傷的なことを考えてしまった。

 

 演劇は体験だ、と思わされる古典の再演に立ち会えたのは、とても幸せだと思う。

 

 

 

ミュージカル「マリーゴールド」2018年9月8日大阪ソワレ感想

さて、繭期入門したばっかりの人がTRUMP~グランギニョルを一気に観た後、友人が確保してくれた見切れ席という名のすごく見やすい席(一般先行先行全滅だったんですよ……)で観劇してきた感想です。

 戯曲集は品切れだったのでパンフレットを購入したんですが、用語があんまり頭に入ってないから、考察は全くないです。そういうのはベテランの繭期の方にお任せして!

以下ネタバレしかありません。お気をつけて。

 

#####

 

まず、観に行く前に日テレプラスでTRUMP→YouTube配信でSPECTERとグランギニョル、最後にU-NEXTのLILIUMを観てからマリーゴールド観劇に臨んだわけですが。

で、イニシャルの印象では。

「あっあっLILIUM女の子かわいい展開エグい好き、グランギニョル染様つらい、ちょっと待ってソフィ……ウル……」

というあんまり人間の言葉になってない感想だったんですけども。

 

開演しょっぱなの

「シルベチカ」

で精神的にボコられました……観てて良かったLILIUM……。

 

そこからずっとボコボコですよ……ガーベラに花言葉を紹介するシーンでLILIUMの登場人物の名前がずらっと並ぶとかどんな辛い展開よ……。

 

 ただ、鬱々とした展開というよりは、個人的にはとても愛に溢れた展開だと思ったんですよ。

 個人的にシリーズのどこかで妊婦が自分の腹をかっさばいて赤子を殺そうとする展開がどこかにあるかもしれないと思ってたんだけど、アナベルはすごく異端の子であるガーベラを愛してるじゃないですか(自分の発想がひでーな)。

 

ガーベラを不器用に愛し護る母アナベルアナベルという最愛の家族を辛い目に遭わせてきたと思うあまりガーベラを憎むアナベルの妹エリカ、どこかつかみどころのない、しかしガーベラとアナベルを想う気持ちは確かに持っているヘンルーダアナベルに惹かれ家族になりたいと願い、ガーベラを疎んじるコリウス、そして母以外の全ての人間から憎まれ蔑まれる繭期のダンピール・ガーベラ。

 全ての想いは一方通行なのだけれど、個人的にとても好きだったのは、誰かが別の誰かに向ける愛情のベクトルの長さ大きさは等価で、男女だからとか、姉妹だからとか、親子だからとか、それで差別化したり強弱をつけたりすることのない、ある意味平等に誰の想いも報われない世界であるというところで。

 最期を迎える瞬間に、もしかしたら、彼らは愛する人のために死ぬことでその想いが成就した、という満足感を得るだけなのかもしれないけれど、そこが何故かとても心地良かったんですね。

 

 それはLILIUMにおける永遠のクランを作ろうとしているソフィも同じことで、彼のウルへ伸ばした手は永遠にウルに届くことはない。紛い物のウルを作ったところで、彼は「僕は君、君は僕」とソフィに返してくれることはない。

ウルが「親友だろう」と言い放った瞬間のひやりとした空気は忘れられないなあ……。

 TRUMPの頃から考えると、ソフィの歪みっぷりと孤独が辛くて、途中から「やめろ……やめてくれ……誰かソフィを救ってやってくれ……頼むよクラウス……」と心の中でずっと祈っていた気がする。しかも偽物のウルが星の轍を歌うとかどんな地獄だよ……。

 これ、LILIUMでファルス=ソフィを演じた工藤遥さんが観劇していたらどう思ったんでしょうね……三津谷くんがLILIUMで立ち上がれなかったのよくわかるよ……。

 

 そしてガーベラですよ。小さな家の中で、希望と名付けられ、ただひたすら母と自分だけが世界の中心にいた少女が、最後に母親から呪いの言葉を投げつけられた挙げ句、父も母も喪いひとりきりになってしまった自分に「マリーゴールド」・絶望と名付ける瞬間の痛々しさときたら。それがLILIUMのラストに繋がるのかと思うと、末満健一に人間の血は流れてるのか。酷い。

 

 いやまあLILIUM好きなんですけどね!!

 

 あと、非常に当たり前の感想を言うと、ミュージカル歌唱が完璧なキャストの方々が揃っていて、とても聴き応えがありました。壮さんと愛加さんと吉野さんetcは当然にしても、東くんと、何よりめいめいこと田村芽実さんですよ!!!

 東くんは今年に入って国際フォーラムで「マタ=ハリ」を観ていて、「うっわ歌うまい発声もいい早くレミゼでマリウスやって」と思ったんですが、めいめいの圧は凄かった……これで19歳とか嘘でしょう……レミゼでエポニーヌやって欲しいし、何なら30歳過ぎてからファンテーヌもやって欲しい勢い。歌に込められた感情が溢れているのがとても良くて、ああ、ミュージカルを観たなっていう満足感が凄かった。

シアター・クリエあたりで観劇してみたいなあ。再演しませんかね?

素晴らしい女優さんであり歌手だなあと。今後が楽しみでたまらないです。

 

 そしてTRUMPシリーズ10週年おめでとうございます。早く続編観せてください……そして末満さんには長生きしてもらって、ちゃんと完結まで脚本書いて下さいと編集者みたいなことを言ってみる。

 とても苦しくて切なくて愛に溢れた、絶望の物語でした。

 

 

「いんぷろby拡樹VI」2018年9月9日1部感想@よみうりランド

さて、今回、9/8大阪からの9/9東京というなかなかな観劇ハシゴツアーだったんですが。2日目は鈴木拡樹FCイベでもあり、所属事務所オウサムの設立記念イベントでもある即興劇。

 

 今年の頭に鈴木拡樹FCに入会して、実は一番観たかったのが、この即興劇のイベントで。

個人的にまだ即興劇を観たことがなかったので、果たしてどんなものかと楽しみにしていた&今年から即興劇オンリーでチェキ撮影イベントがなくなったということで安心して応募したんですが(いや、基本的に遠くで観ていたい人なので……)、スケジュールの関係で1公演だけ観てきました。

 

 開演前に観客にペーパーを渡してお題を書いてもらい、ペーパーをくじ形式で引きながら、テーマに沿って即興劇を行うインプロヴィゼーション。演者の機転と演技力が試される結構大変なものだと思うんですが、これがまあ偶然性と咄嗟の発想とが噛み合った時に奇跡のような面白さになるんですね。とにかく笑いすぎてお腹が痛くなるくらい。

 

 プロの役者さん2名と、鈴木さん、そしてオウサムの若手二人と11歳のニマくんの6名でコーナーに分かれて展開していくんですが、個人的に印象が深かったのが「取り調べ」という即興劇。

 

 鈴木さんが犯人役なんだけど、何をやって捕まったか、どういう人物か、というのは最初の時点でペーパーを引いて決めていく。

 司会を兼ねている役者の矢野さんが警察官の役。

 鈴木さんは最初、どこかオドオドした感じの若者を演じているんですが、二人がペーパーを引いて出てきたお題が「富士山」「見えるか!?貴様の火遊びとは一味違う魔を秘めた本当の炎術が…邪眼の力をなめるなよ」(多分)「ウォンバット」「仮面ライダー」「秘密」などなど。本当にとりとめないし、出る順番もめちゃくちゃで、ペーパーを読んだ瞬間から面白いんだけど、鈴木さんはそこから若者に「飛影のコスプレで撮影のために富士山へ」という設定をどんどん上乗せしていって、矢野さんも「ウォンバットが暴れて人に怪我をさせたから一億円支払え」、と展開させていき、最終的に若者が「仮面ライダーとハリウッド映画に出演が決まって1週間後にお金が用意できるから、それまで待って下さい」でオトす、という、物凄く意外で面白いオチになっていったのが結構な衝撃で。

 うまく説明出来ないのがもどかしいんですが、出た瞬間の発想は嘘がつけないから、演者の想像力と表現がないと繋がっていかないんだけど、皆さん見事で、大笑いしつつもプロのテクニックに驚嘆しました。

 

 あと、実はフォーメーション(ペーパーを1枚引いて、それに関して4人で発想してポーズを決める)で自分のお題が読まれたんですけど、大変分かりづらいネタでご迷惑をおかけしてしまいまして……ごめんなさいと反省(橋ー箸みたいに同音異義語があるやつにしてしまった)。なんですが、鈴木さんが早々に同音異義語だったことに気づいたのを見て、「この機転があるから本番中のトラブル回避が早いんだな」と納得したのでした。

 

 ラストが長編の「ペーパーズ」で、避暑で遊びに行くはずが何故か南極に到着してしまい、というもので、タイトルからシチュエーションから全てペーパーで設定していくというものだったんですが、引かれたお題「俺のそばから離れるな」(だったかな?)をラストに綺麗に回収したのも凄かった。

 

 全部で4部あるうち、私が観られたのは1回だけだったんですけど、お題の設定から1回きりのものだったので、来年はもっと観たいなあと思ったのでした。

 

 しかし凄かったなあ。ひたすら面白くて驚愕の90分でした。皆様お疲れ様でした……!

 あと、ハロウィンのカボチャのかぶりものが大活躍していたのも微笑ましかったです。

 

 個人的に鈴木さんにはコメディに出て欲しいと強く思っている人間なので、そこが満たされたのも良かったです(笑)。

 いや、コメディって役者の演技力が一番試される演目だと思うんですよ。笑いを外した観客は冷たいですから。そういう場所で丁々発止している鈴木さんを観てみたいなあとしみじみ。

舞台『刀剣乱舞』悲伝 結いの目の不如帰(5)7/29大千秋楽ライブビューイング

yuuki-sara.hatenablog.com

 

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過去エントリは上記です。

 

 

観てからちょっと時間が経ちましたが、大楽ライビュに行ってきました。

……のはいいんだけど、今回も台風接近で天候がどうなるかわからなくて、本当は博多で観る予定だったのが、急遽チケットを交換して頂き、博多滞在時間2時間半で地元に戻ってライビュを見るというおまけつき(しかも終わった時には晴れていた……)。

中止になった北九州といい、個人的には最後まで悪天候に振り回された舞台でしたが、なんとか無事に見届けられたので良かったです。

 

以下ときどき敬称略。そしてネタバレしかないのでよろしくお願いします。

多分これまでの感想の中で一番まとまりがないんだけど、思いついたことをつらつらと。

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大楽に関しては、まんばちゃんの極は来なかったけど(上記エントリ(2)参照)、ラストの白三日月VS山姥切国広の対決で山姥切国広が勝ったという衝撃の展開に全部持って行かれた……というか、その前に鵺と呼ばれるが初めての登場じゃなかった的なセリフがあったところで「あれ?」となり、山姥切国広に歴史が降ってくるシーンでの変更に「あれあれ?」となり、そしてラスト「北九州まではなかった『煤けた太陽』が回収されてる!」「殺陣の段取りが違う!」と気がついた瞬間に号泣しそうになって頭が真っ白になったので、後で配信を見返してようやく落ち着いて観られた(でも毎回泣く)という有様でした。パンフレットやインタビューではずっと匂わせていたけれど、まさか本当にやってのけるとは。こんな驚きが待ち受けているとは思いませんでしたよ……。

 

ED変更は小劇場系だとちょいちょい聞く話だし、最近だとA3とか、ちょっとベクトルは違うけど、今年1月に上演された翻訳もののストレートプレイ「TERROR テロ」で最後に観客が有罪か無罪かを投票して毎回結果が変わるっていう、観客巻き込み型のED変更をやっていたっていうのを聞いたりはしていたんだけど、実際に自分が観た舞台でそれがあるとめちゃくちゃ衝撃を受けるんだな、というのが個人的な印象。

初日明治座の映像を残したのはそのためだったのか、と物凄く納得したんですが、映像に残すことを徹底している作品だからこそ出来る攻め方だなと。

 

実際に明治座→北九州でもラスト殺陣にはちょっと変化がついていて、

明治座…圧倒的だった白三日月→北九州…ボロボロだった白三日月が話しているうちに少しずつ力を取り戻して背筋を伸ばすという動作が追加

というのがあったんですが。まさか最大の日替わりが三日月VS山姥切の殺陣とは。

明治座と北九州に一緒に行った友人が実は予想していた)

もし機会があれば、蔵出しに全部収録して欲しいなと思いつつ。

役者の演技の変化も含め、悲伝は1公演1公演が、三日月の繰り返したループで、大千秋楽は変化の起きたループだったんだなあと改めて実感した次第。まさに役者が毎回生でやる演劇というメディアでしか出来ない要素なんですよね、これ。

 

ただ、何がえげつないかって、山姥切国広が勝ったところで、三日月宗近が刀解されるという円環の結びにはまったく変化がないというのが。

しかも、山姥切国広が三日月宗近の約束を受け入れて「強くなる」ことを選択したことで、もしかしたら山姥切国広も、三日月宗近の隠している何らかの重い運命を一緒に背負い込むのではないかという、恐ろしい可能性まで匂わせるという……。

山姥切も三日月も、これまでに見せなかった笑顔を最後に見せたし、最後の三日月の顕現時に虚伝初演の時の顕現ボイスになっていたということで、虚伝初演の時点に三日月は戻ったのだろうと個人的には思ってるんですが、ただ、それが何を意味するか、ということについては、今後刀ステ二期があることを期待するしかないんだろうな。

 

明治座で最初に観た時には、ただただ、何も言わず一切を隠し通して消えゆく三日月宗近が悲しかったんだけど、大楽に関しては、エンディングを観て2日くらい経って、笑顔の重さに打ちのめされるという奇妙な経験をしました……。

 

でも、このエンディングの変化については不思議ではないというか。

そもそもこのラストの変化は、虚伝初演と虚伝再演を踏襲していると思うんですね。初演の時の蘭丸にはなかった、ループを繰り返していることを匂わせる台詞が再演で追加されているものの、最終的に信長はやはり自刃し、「織田信長とは何者なのか」という揺さぶりを刀剣男士達に残して終わるのに呼応するように、悲伝でループを繰り返していたことが明らかになった三日月宗近が、千秋楽で虚伝初演に還り(多分)、「三日月宗近とは何者なのか」という揺さぶりを刀剣男士にもたらして消える、というのは、個人的にとても好きな構成です。

 

あと、歴史ものを観ているときに、例えば「今回こそ石田三成が勝つのではないか」とか、「織田信長が死なない未来があるのではないか」とふと考えてしまう歴史のIFを、二人の殺陣の勝敗が変化するのに三日月は刀解されるというという展開で容赦なく否定するのが、とてもメタフィクショナルだなと。どう干渉しようと、歴史の大勢には変化がない。それは三日月宗近が告げた通りの厳然たる事実。

けれど、三日月宗近と山姥切国広の歴史はまだ過去のもの、変化しようのないものにはなっていなくて、未来に向けては白紙になったのだ、というのが、歴史が降ってくるシーンから太平洋戦争の描写が消えたことで明らかになったのだと信じたいなあ……。

個人的にはここで刀ステの物語が閉じてしまうならば、それは演劇的には美しい終わり方だとも思うんですよね。訳のわからない理不尽な悲劇が襲いかかってきて、それに呑み込まれたものと揺さぶられたものたちの物語として、幕が降りるのもアリなんじゃないかとは感じたんだけども。ただ。

 

monokaki.everystar.jp

 

上記末満さんのインタビューにもあるけれど、ゲーム中の物語が進展していない状態で派生作品である刀ステが、勝手にSF的なギミックを定義した上でSFとして物語を閉じるのは現時点では難しそうだと思うので、ある程度ゲームの内容が提示されてからじゃないと「大団円」と末満さんが言う物語の未来には進めないんだろうなと。

でも、もし可能ならば、その大団円だけでも、キャスト変更なしで描いて欲しいとちょっと我儘なことを考えてみたり。

というのも。

 

ameblo.jp

 

荒牧くんのブログとニコ生で語られていたんだけども、大楽のラスト殺陣は稽古時にはなかなかうまく行かなくて、けれど本番ほぼ一発勝負で成功したという恐ろしい、まるでフィクションみたいなエピソードがあり。

ニコ生を見たあとにディレイ配信を見たら、実際に三日月に勝った瞬間の山姥切が、一瞬本気で呆然としてたんですよね。LVの段階でもその表情は物凄く的確に抜いていたと思うし、負けて晴れやかに笑う三日月の表情が、美しい刀が最期の力を振り絞って、ぼろぼろになりながらも希望を灯した瞬間のように思えて、それが余すところなく映されたのが素晴らしかったので、撮影班最高だなと改めて感謝した次第……。そして、実際に打ち合って誉れ傷だらけになった二振りの刀を大写しにしてくれたのも。普通なら殺陣だと実際に刃は当てないんでしょうけども。

またここで見届けた小烏丸の笑顔が実に温かくて。

 

明治座初日からラスト殺陣の三日月VS山姥切は、他の誰も入り込めない技巧と、ほとばしる感情と、演技だけではない関係の濃密さに溢れていて、北九州でも実際に観た時にはひたすら息を呑んで見守るしかなかったんだけど、大楽ではキャスト全員が袖で二人の殺陣を見守って、荒牧くんがハケたときに拍手で迎えられたという現実と芝居とが交錯するような話を聞いた日には、せめて物語の結びだけでも鈴木三日月と荒牧山姥切の二人で、どうしてもやって欲しいと願ってしまうなあ……。2.5次元舞台にキャスト変更はつきものだとわかってはいるんだけど、あの殺陣はおそらく、あの二人でないと出来ないだろうと突きつけられてしまったような。

苦難だらけの道を必死で乗り越えてきた刀剣男士キャストに、演劇の神様が微笑んだ瞬間を見た気分。

だからこそ、今はブッキングが難しいかもしれないけれど、数年後、さらに表現力を磨いているであろう現キャストになるべく続投してもらう形で、何らかの結びがあるといいなと思ってしまうわけで。

個人的な事情として、北九州前楽、劇場での観劇ラストの予定だった日、1桁目列で観られるはずだった公演がまさかの中止になってしまって、そのことへの残念な気持ちが消えないっていうのはあるんですが。

 

キャスト個別感想に関しては以前アップしたエントリからそんなに変化はないんだけど、キャストの成長具合に目を瞠った2ヶ月でした。特に加藤くん大物になってくれ。

そして座長・鈴木さんに関しては、殺陣や所作のブラッシュアップ具合が凄まじくて、最終的にまるで能を思わせる動きに昇華されていたなと。最小限の動作で最大の情報伝達をする無駄の無さが人間離れしていて正直恐ろしかった。

あと、何故三日月ウィッグのサイドがあんなに厚いんだろうと今回不思議だったんだけど、三日月の表情を見せないためだったのかなと。要所要所でサイドの髪を利用して表情を隠して、観客に見せる表情の情報量を意図的に減らしているように見えたんですよね。それこそ能の面をつけているみたいに。おそらく舞台に近い観客も遠い観客も、三日月の表情が伝える情報量は同じくらい間引かれていたんじゃないかなとようやく気が付き。重要なシーンでも大体横を向いているか観客に背中を向けているかだし。物語の中心ではあるけれど、物語を動かす主人公ではない、という役回りがもたらす難しさとの闘いだったんだろうなとしみじみ……。

その分声に感情が乗っていて、普段の喋り方とは抑揚を変えて、三日月が心揺らぐポイントを的確に伝えてくるあたり、やっぱり技巧派の役者なんだなあと再確認しました。あとラスト顕現シーンの台詞の発声な……。鳥海ボイスに忠実なのは虚伝初演とジョ伝の顕現シーン(ただ、この時はしょっぱなから骨喰にお守りを渡しているから、ループしている三日月の可能性が高いけども)の時だと思うんだけど、大楽以外はひろちかボイスだったので、声だけで違うフェイズに突入したんだなとわかるのは凄いなと。

雑誌「Audition Blue」の特集で、三日月宗近の行動原理は愛だ、と鈴木さんは明言していたのですが、その愛がどういう理由に基づくものなのか、もしかしたら鈴木さんは末満さんから聞かされた上で、悲伝の演技プランを組んでいるのかもしれないし、いつかそれが明かされるといいなと願うばかり。

 

そして。明治座LVの時に、悲伝は「とても演劇的だ」と感じて、ならば2.5次元舞台であることと演劇であることとの区別はどこにあるんだろうと考えていたんだけど、カテゴリ分けにあまり意味はなくなりつつあるというか、役者がいて、板の上で演じるならばそれは演劇だし、その中で、アニメや漫画やゲームを原作とするものを、便宜上2.5次元舞台と呼んでいる程度のことになってきているのかも。

私は元々ストプレが好きで、それはひとえに役者が脚本を読んで物語や台詞を解釈し、自らの身体に落とし込んで、感情を与え、登場人物の言葉として、台詞を発して観客に伝えるという行為に一番面白さを感じるからなんだけど(ミュージカルも好きではあるんだけど、歌や音楽っていう別の評価軸が入ってくるから全く別のものとして受け取ってます)、悲伝に関しては、悲劇性や理不尽さ、観客を試すようなぶん投げ具合、そして呑み込み難い何かをぶつけてくるところに、「演劇的」だと感じたのかもしれないと思いつつ。

悲伝はタイトル通り悲劇性に全ステータスを振っていると思うんだけど、悲劇を、ちょっと悪趣味な言い方をすれば、見世物的なエンターテイメントとして消化出来るのが演劇ならではの要素だと思っていて。どれだけ作中で苦しんでも、残酷な死を迎えても、カーテンコールに役者は再び現れて、現実に還らせてくれるという親切設計だし。原作つきであっても、そこに踏み込むことに躊躇しなかったのが、個人的にはとても好きです。ゲームシステムの悲劇的な要素に着目したメタフィクショナルな脚本だと思ってるので。

 

まあその後TRUMPシリーズの一挙配信を観て、末満脚本にしてはめちゃくちゃ手心を加えていたんだなと痛感した訳ですが。登場人物が大体死ぬか死ぬよりも辛い状況に置かれていてもう笑うしかなかったからな……しかも「マリーゴールド」は劇場で観るんだぜ……生きてられるのか私。

 

閑話休題

今回は53公演(本来ならば55公演)ということで少し気になったんだけども、キャスト・スタッフの安全管理は大丈夫なのかなと心配になるところがあったので、もし続編があるにしても、そこは管理を徹底して欲しいなと。

明治座初日ライビュを観たときに、セリが完全に止まっていない状態で移動の動作に入る刀剣男士で冷や汗をかいたんですよ。「挟まれたら事故になる!」と思って。実際セリでの事故は洒落にならない結果になることが多いから……。

そこは事故や怪我を防ぐためにも指導を徹底すべきだろうし、他にも、観客が多い演目とはいえ、正直上演スケジュールを詰め込み過ぎなのではと感じたので、もうちょっとゆとりを持ったスケジュールを組んで欲しいなと……。1回につき3時間半の舞台をマチソワやるだけでも半端なく体力を消耗すると思うんだけど、悲伝に関しては殺陣の量も凄まじかったし、そもそも舞台の殺陣で刃を当てるって割と変則的なようだから、刀の消耗具合も半端なかっただろうし、キャストの皆さんも相手に怪我をさせないよう、自分も怪我をしないよう気も使うだろうし。

千秋楽でキャスト全員の面差しが変わっていたのを観て、全員が揃って終えられたことは殆ど奇跡に近かったのではないかなと。

もし次があるのなら。もうちょっとゆとりのあるスケジュールで運営することを願います。他の作品に関しても同様なんですが。

観客の私も、役者のやりがいを搾取する側なのかもしれないなあと痛感したりとか。どうか無理なく怪我なくご安全に……。

 

改めて、皆様本当にお疲れ様でした。忙しいメンバーばかりだと思いますが、少しでもゆっくりする時間が取れますように。

 

そして、辛くて悲しくて楽しくて愛しい悲伝の2ヶ月を、虚伝から始まる2年間のモノが語る物語をありがとうございました。私は舞台『刀剣乱舞』が大好きだよ。

 

 

舞台『刀剣乱舞』悲伝 結いの目の不如帰(4)7/5北九州マチソワ感想と7/6の出来事(7/11追記あり)

えー、とうらぶ今月の極は歌仙さんでしたので、

yuuki-sara.hatenablog.com

の予想はハズレですな……まんばちゃん来月の極実装が楽しみなような怖いような。

 

以下、ネタバレしかない感想。主に演技の話が多いかな。

そして7/6の話も少しだけ。

(7/11追記あり追記部分の文字色を青に変えてます。そして義輝様のお名前を間違っていました……!どあほう!!修正しました……。)

たたみます。

 

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舞台『刀剣乱舞』悲伝 結いの目の不如帰(3)雑誌読んでの雑感含む主に三日月宗近周辺の話

 CUTと日経エンタ刀剣乱舞特集を読んだので、改めて北九州での観劇前に整理しとこうと思って、ふせったーにアップしたものに補足の文章を入れてブログにアップします。京都公演の間に進化しているんだろうなと思うとソワソワするんですが、後半戦すぐの北九州が本当に楽しみです。九州公演ありがたや。

 

全開の悲伝バレも入った妄想100%の話なのでお気をつけてご覧ください。

相変わらず文体が迷子ですが、普段ツイートするときはこんな感じです。ごめんなさい。

 

主に三日月と鈴木拡樹氏の話がめちゃくちゃ多いんですが、まあこのブログの過去のエントリを見て頂ければ私の見方が偏っているのはおわかりかと思いますのでよろしくな……。敬称略したり略さなかったり。

 

以下、記事をたたみます。

 

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舞台『刀剣乱舞』悲伝 結いの目の不如帰(2)ネタバレ雑感とちょっとメタ的な考察

以下妄想と致命的なネタバレしかないので要注意!!

別作品への言及があるんだけど、決定的なネタバレになってます。

あと、途中で力尽きたので、そのうち追記するかも。

 

一応見出しはぼかしてみるけど、平成と2010年代を駆け抜けつつある1ヲタクの回顧的な雑感も含むので、作品感想からはちょっと外れたり近づいたりかもしれない。演技についてや舞台としての感想はまた別項に(いくつエントリ作るつもりだよ)。敬称略。

随時追記します。本文は折りたたむ。

 

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