久々の更新ですが、なんと4月の頭にA型インフルエンザを発症して、フル回復するまでに1ヶ月かかりましたよ……控えめに言って地獄だった。
しかも4月のインフルエンザは2年連続なので、今年の冬からは予防接種を1シーズン2回受けようと思います。しかも仕事もめちゃくちゃ忙しくなったので、予定をいくつかすっ飛ばした上に修羅天魔のLVも諦めたんだけど、なんとか回復した&ありがたいことにご縁があって観劇が叶いました。
以下、感想。
実は一緒に髑髏を観に行った友人が、過去にも「三人どころじゃない吉三」や「Sin of Sleeping Snow」、3年前の「私の頭の中の消しゴム」鈴木拡樹回を劇場まで観に行っていて(というのを今年になって知ったという)、今回の朗読劇が発表されたときに、「消しゴムは絶対観ておいた方がいい!」と言われていて、嬉しいことに3日の楽日を観劇することが出来るようになり。
こういうご縁は結んでおかないと将来的に絶対後悔するのを知っているので、慌てて飛行機を押さえて東京へ。
あらすじは以下の通り。
といっても、記憶は曖昧なんだけど、多分永作博美主演の「Pure Soul」は見ていて、そのときの視聴者の感想もWEBで色々読んでいた覚えはある。
脚本も「ごくせん」「花咲舞が黙ってない」の江頭美智留さんだったなあと懐かしく思い出しつつ。映画は未見。
(ドラマだと浩介と薫の間に子供が出来るから、二人の関係性自体が朗読劇とは随分違った気もするけど記憶が略)
私が観劇したのは2日目にして楽日。
そもそも私が朗読劇を観るのは初めてなので、きちんとしたセットがあることに驚いたんだけど、中央のドアから飛び込んできた鈴木浩介が、ぶっきらぼうな口調で薫の日記を読み上げるところからスタート。
続いて薫の登場。明るくかわいらしい笑顔の彼女が、実は不倫に苦しんでいて、それを振り切ってなんとか前を向こうとしているという背景がわかったところで、第一印象が最悪だった二人が、少しずつ距離を縮めていく様子が、互いに自分の書いた日記を読み上げることでわかってゆくという流れ。
親密になるうちに、浩介は母親に捨てられたトラウマを思い出し、薫を突き放そうとするのだけど、二人で葛藤を乗り越えて結婚。幸せな新婚生活を過ごしていたのに、実は……という天国から地獄へと一気に突き落とされ、その果てに浩介が見る光の話、になるのかな。ざっくりだけど。
朗読劇とは銘打っているんだけど、とても演劇的というか、立ち歩いて演技をしているのと変わらないくらいのエネルギーと感情の渦みたいなものを感じる舞台だったな、と思う。5月2日の回では浩介は涙を流していたそうなんだけど(そちらも見てみたかった気もする)、3日は浩介は一度も涙を流さず、心に秘めた嵐のような感情を台詞によって爆発させていて、形として感情を発露させるものがなかった分、私の中にも形を成さないエモーショナルなものが、純度100%で流し込まれたような感じがあった。
とてもはっきりと輪郭を持って「生きている」男性だったな、と思う。
浩介が抑制的な分、薫の喜怒哀楽がストレートで、決して「型どおりのいい子」ではあり得ない薫の無意識の残酷さや幸せな環境で過ごしてきたが故の無理解もあるんだけど、それを内包してもなお愛らしくて、こういう女性だから浩介の心の分厚い壁を破って掴み取ることが出来るんだろうなっていう説得力を感じた。
浩介と薫二人の存在感が素晴らしかったし、特に後半の演技は圧巻だった。いいものを見たなあ。
どうしても鈴木さんの演技についての感想が主になってしまうんだけど、とにかく増田有華さんの演技が好きで。とても巧いと思うし、しかも単なる巧さを超えた感情の生々しさがあって、いい女優さんだなぁと。AKB出身の女優さんって人前に出る場数を踏んでいるせいか、凄く安定しているなっていうイメージがあるんだけど(大島優子さんとか秋元才加さんとか川栄李奈さんとか出したらキリがないな)、今後も舞台やドラマで拝見したいなと思う熱さだった。
それから、二人芝居なんだけど二人じゃないというか、序盤のシーンで浩介が親方のモノマネをしたりとか、薫の友人と会うシーンだったりとか、そういうところの端々に、閉じていない二人以外の世界が広がっている感じがしたなぁ。うまく言えないんだけども。沢山の人間が二人の周りにちゃんといて、支えられたりぶつかったりしている感じがあって、地に足が着いていた気がする。
鈴木さんの浩介に関してもなんだけど、とにかく生々しい存在感のある演技だったし、台詞の一つ一つが感情の具現化したもので、それを胸の中に直接叩き込まれるような強さと烈しさに圧倒された。
それゆえに、演技としては抑制的(声を荒げるシーンはあっても涙は流さない、台詞も緩急が効いている)なのが余計効いていたなぁと。ずっと台本に目を落としているから表情ははっきりとわからないんだけど、ページをめくる手が震えていたり、もどかしげに何度もめくったり、時にはぐしゃりと握りつぶしたり、そういう仕草が雄弁に感情を表しているのが印象的。
あと、決して上手く台詞を読み上げようとするのではなく、とても「浩介らしく」言葉を紡いでいったのではないかなという気がした。時折言葉に詰まったりもするのだけど、ぶっきらぼうできつい言葉を投げかけがちな浩介ならば、自分の書いた日記を読むときに、こんな風になってしまうだろう、というような。
ただひたすら爆発的なエネルギーに圧倒されて、舞台が終わってからしばらく呆然としていたし、今も熱量にあてられている部分はあるかもしれない。
鈴木さんの2.5以外の舞台を劇場で観るのは髑髏以来2つ目なんだけど、2.5以外の舞台にも色々と出て欲しいなあと思うことしきり。
「消しゴム」を勧めてくれた友人に観劇翌日に会って色々と話をしていたんだけど、「ベテランの多い重厚なシェイクスピア劇とか出て欲しいよね」という流れに。
あと、個人的に2人~4人くらいの登場人物で話を回していく、役者の演技力がぶつかり合う芝居が好きだったりするんだけど(役者は台詞多いし出番もひっきりなしでとにかく大変なやつ)(なので「僕のリヴァ・る」の円盤も大変楽しく拝見しました)、そういう舞台も観たいなあ。
まあ私は三谷幸喜のフィールドの人間なので、そっちに出て欲しいっていうのは何度も書いておく(笑)。それと大河ドラマとBS時代劇。映像系だとNHKはなんだかんだ強いと思うので。
まだ自分の中で消化しきれてなくて、とりとめのない文章になってしまったけど、とにかく観に行って良かった。他の組み合わせも観たかったけど時間がなかったので、また観に行けるといいなあ。そして、数年後にまた同じ組み合わせで観てみたいなあと思いつつ。
で、以下はラストのネタバレと自分の個人的な経験に基づくものなので、適当に飛ばし読みして欲しいんだけども。
去年、薫とは別の病気なんだけど、一昔前の法律用語でいうところの「事理弁識能力を完全に欠いた」母親が施設に入るのを見送った立場なので、正直なところ、浩介が薫の介護を続けていく中で、心折れたことをはっきりと口に出す瞬間の言葉、「疲れた……」が物凄く刺さった。
病状が進行していくなかで、多分沢山浩介の心折れる瞬間があって、浩介はそれまで必死で自分の心が折れているのを否定してごまかそうとしていたんだろうけど、薫の症状が進行していく中でバーンアウトしてしまった自分を認めざるを得ない、その時の残酷な言葉を、血を吐くような言葉にして表現された瞬間、奥歯を噛み締めて嗚咽をこらえるしかなかった。
でも、バーンアウトを認めた瞬間、多分浩介と薫の関係性は大きく変化したんだろうな、というのもあり。
庇護するもの、されるもの、という関係がリセットされて、改めて「浩介と薫」という個人の関係に戻ったのじゃないかなと。
だからこそ、最後の浩介から薫にかけられる「愛してる」という言葉は、純粋に心情を伝えるものとして薫に投げかけられているのじゃないかな、と。
なので、「疲れた……」をあんな風に表現した鈴木拡樹は、恐ろしい、そして凄い役者だな、と、今更ながら思う次第。
また数年後に、「消しゴム」の朗読をしたら、今度はどんな解釈になっているんだろう。その時に観られるといいな。