ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

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「日本の歴史」2018年12月8日世田谷パブリックシアターマチネ感想

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2018年最後の観劇は、「日本の歴史」東京からの「No.9」大阪公演に大移動というなかなか面白いことになってたんですが。

 

まだ大阪公演があるので、ネタバレ踏みたくない方は以下を絶対に読まないでください。敬称略。

 

 

「日本の歴史」と銘打ちながら、始まりはなんとアメリカはテキサス州。土地を買って定住することになったある家族の喜びから。

そして、そこから始まる物語のキャストは7人のみ。アンサンブルもなし。

とはいえ、荻野清子&バンドメンバーがずっと生演奏を続けているので、彼女たちも

前情報なしで観に行ったので、最初は目を白黒させながら舞台を見守っていると、突然現れる、白衣を着た秋元才加こと歴史の先生。

彼女が生徒に向かって語り始めるのは日本の歴史。

 

卑弥呼の時代から始まる日本の歴史の走馬灯。そしてテキサス州に住むある家族の家族史。

まるで学研の子供向け漫画「日本の歴史」みたいに、歌とダンスと、一人が何役も兼ねる、女装男装なんでもあり、ある種コスプレ的でもあり喜劇的でもある日本史パートと、テキサス州の家族の歴史が、まるで見立てのように重なってゆく瞬間の驚きときたら。

 

シルビア・グラブの演じる卑弥呼、宮澤エマの演じる平清盛、そして中井貴一香取慎吾演じる平清盛義経兄弟(このシークエンスの二人の演技バトルは圧巻で、正直この二人で大河ドラマが見たいレベル)。近世になっても、新納慎也演じる悲劇の将軍と、川平慈英演じるテキサス州の農民の息子が入り交じる構成はとてもハイコンテクストな内容なんだけど、情報が整理されているからとっつきにくいということもなく。

 

そして全員で歌う「因果」というフレーズが何度も繰り返されるなか、テキサス州の彼らと日本の歴史が交わる瞬間の衝撃。

 

やがて歴史の先生は母となり、子供につけられた名前は。

 

丁度「贋作・桜の森の満開の下」を観たあとでもあり、三谷幸喜自身が「NODA・MAP的な表現」とインタビューで話していたとおり、内容としてはかなり難解だと思うし、あまり大掛かりなセットもなく(吊るしのセットは出てくるけど)正方形のボックスと、中央に3本のラインが引かれ、プロジェクション・マッピングを多様した舞台は「想像力をフルに使え」という三谷作品には珍しい突き放し方だと思うんだけど、ラストの衝撃も相まって、観てから1ヶ月近く経つ今もじわじわ余韻が残っていて。

 

そして荻野清子の音楽が本当に素晴らしい。三谷幸喜の書く膨大な台詞をミュージカル曲として作るのはとにかく大変だろうと思うんだけど、一度聞いたら忘れられないフレーズの連続で、今も音楽が頭をよぎるときがある。

 

7人の役者は全員演技力も歌唱力も確かで華もあるので、今更色々言うのは野暮なんだけど、中井貴一がミュージカル初参加なのは嘘でしょう。いやマジで歌もダンスも上手いとかいうレベルを軽く超えてたんですが。あと、途中で「誰(たれ)かある!」っていう台詞があったのは大河オマージュですな……思わず泣きそうになってしまった。

 

そして香取慎吾の華は素晴らしくて、彼はテキサス州パートでメキシコ系アメリカ人を演じるんだけど、その彼のアイデンティティを発露するシーンは、彼のこれまでを考えると感慨深かった。SMAPの一員としての彼を見てきて、組!で主役として近藤勇を据えて、以後映画やドラマ、舞台で香取慎吾を起用してきたミタニンの、彼に捧げるあて書きなんだなって思った瞬間から涙が止まらず。

 

三谷幸喜の歴史ものに関しては、個人的には悲劇的な結末に寄れば寄るほど好きなんだけど、この作品も例に漏れず悲劇的な結末で、当然私の好きなものだった。

平成最後の冬に三谷幸喜とキャスト達が観せてくれた歴史の走馬灯は、確かにミュージカルという表現でなければなし得なかったものだと思う。

 

本当にいいものを観た。三谷作品に再演を望んでもなかなか難しいんだけど、ものすごい人数の立ち見席の人々を見て、再演してほしいと心から願ってしまった。

とりあえずWOWOWで放送されるようなので、契約されている方は観てみてください。平成最後の冬に、日本の歴史を振り返る、鋭く尖った鏃のような作品だった。