ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

舞台「時子さんのトキ」 2020年9月19日ソワレ@よみうり大手町ホール

tokikosan.com

 

ということで。

東京で観劇するのは、3月のまとめて観劇ツアー以来で、正直なところまだ早いかなとも思っていたんですが。

住んでいる田舎のコロナ対策のガバガバ具合を見て、「これは東京の方が対策徹底されてるんじゃ?」となったので思い切って飛んだんですけど、考えた通りでした。

東京は沢山感染者が出ているだけに、意識の高い人が多いんですよね。

これ、うちの田舎だとマスクなしとか鼻が出てるとかまーじでゴロゴロしてるから!

 

といっても、8月に舞台「死神遣いの事件帖」の福岡公演を観て、ちょっとリハビリをした上での観劇旅行でした。(こっちも感想書きたいんだけど夏場は完全に暑さでやられてたのでこれからやります)

 

さて、久々に板の上で観る鈴木拡樹でしたが。

 

以下はツイートをまとめたもの&補足です。ネタバレ項目をまとめの下に作ってます。

箇条書きになってるのはツイート。

 

・上手い人しかいない芝居はめちゃめちゃに贅沢だな…本当に贅沢だな…

絶唱サロメ以来の豊原さんが可愛くて悶絶してたかわいい

・当て書きの脚本すんばらしい

・私のエンタメ好きのルーツの1つにテレビドラマ好きがあって、岡田惠和脚本とか最近の坂元裕二脚本とか、ヒリヒリした日常に胸を締め付けられる系の展開があると飛びつくんだけど、時子さんまさにそこにドンピシャだった。これNHKの単発ドラマで見たいやつ

・ワイ、笑いながら泣かされるシーン大好きなので本当にチョロい(好き)

・でも脚本の田村さんのルーツが向田邦子っていうの、物凄くわかる。わかりみが深い。私は向田邦子ドラマリアタイじゃないけど、教科書でエッセイ読んでからしばらくエッセイいくつか読んだんだよなあ。あの墜落事故がなかったら、向田邦子は今の世界をどう描いてたんだろう

・今の仕事でクズとダメ人間と多額の借金を見慣れてるマンなので「あっうんまだ大丈夫」って思ったの自分でワロタ

・演技面や内容で一切役者を甘やかす気のない脚本演出はすごいなあ。あれ、みんな身を切る想いで演技してるんじゃなかろうか

・…んだけど、演劇なりのWithコロナの時代の姿勢を見せてもらえた気がして、凄くホッとした…そういう作品に鈴木さんが出て、しかも当て書きで、とても良い演技を見せてくれたの、本当に感謝しかないなあ。また田村作品で観たい

・大手町ホールは「私の頭の中の消しゴム」以来2度目だったんだけど、鈴木さんの現代ものを観るホールだなあ。とても好きなホールだったし、物凄く良い演技だった。本当に良い演技だった!高橋由美子の時子さんとのコミュニケーションとディスコミュニケーションの塩梅が物凄く理想的で

・いや、Withコロナの時代なんかクソっ喰らえって思うけど、同時に創作者にとっては、全世界で一斉に同じ条件(つっても国によって状況違うけど)の創作物が作れるっていう、ある意味業の深いチャンスでもあるじゃないですか。それに貪欲な芝居が板の上に乗ってるのを、ようやく観せてもらえた気がする

・コロナの諸々が思い切り表面化したときに、それを人がきちんと見られる商業用の創作物に落とし込むのってNHKのドラマが一番早くて、しかもどれも納得の出来だったし、一方で正直演劇関係の反応や動きに失望することも多くて(主にえらい人のムーブな)、二心なく観られるんだろうかって不安があったんだけど、演劇なりのWithコロナの時代の姿勢を見せてもらえた気がして、凄くホッとした…そういう作品に鈴木さんが出て、しかも当て書きで、とても良い演技を見せてくれたの、本当に感謝しかないなあ。また田村作品で観たい

・いやー自分が脚本演出の方に求めてるのは底意地の悪さなんだなってしみじみしたわ…私が底意地悪いのもあるけど…未婚で子供のいない高橋さんに時子さんを、2.5で堅実に足場を固めて今がある鈴木さんに売れない路上ミュージシャンの翔真をあてるっていう当て書き脚本つよい

・いやーなんか個人的に今年の現代もの創作枠は映画「his」ドラマ「MIU404」舞台「時子さんのトキ」で割と満足してるかもしれない…いい年だった(まだ終わってない)

・時子さんはMIUのベトナム人労働者回に比べたらハッピーエンドやで…オチがよりによって日本で一番時給が低くて失業率の高い県に転職とか物凄い強烈なメリバじゃんって思ったもんなあ

 

以下、補足&本編のネタバレに触れるので、少し間を空けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい。

この作品、自分のポジションによって全く感想が変わるだろうと思うし、それくらいグラデーションのある豊かな脚本だなと、2日経った今改めて感心してます。

で、私のポジションを明らかにしておくと、債務整理のあれこれの事務担当をしているので、日々時子さんや翔真みたいな人を相手に聞き取りをして申立書を作ってる身としては「うーわーいるわこういう人」の連続で、とにかく苦笑してました。

 

(余談だけど今の仕事始めてから宝くじが怖くて買えなくなりました。宝くじは破産の免責不許可事由にあたる立派なギャンブルだから気をつけて…。 ソシャゲもな…。 ゆーても借金の返済より命の方が圧倒的に大事なので、借金返せなくなったら速やかに近くの弁護士に相談するんやで…都会にある、宣伝打ちまくってる弁護士事務所に相談すると逆に高くついたりするから…)

 

で、日々相手しているだけに、完全に他人事として扱う癖がついてるので(感情移入しすぎるとメンタルが死ぬ)、頭では完全に切り離して観てたんですけども。

 

個人的に、時子さんの造形がとにかくおっかないんですよね。ラスト、色のついた服をまとった息子のトキが出てきますけど、本当のトキだとしたら、トキと同じ顔、同じ声の翔真は一体誰だったんだろうと。

 

芝居は完全に時子さんのモノローグ、となると時子さん視点で物語が進んでいて、時子さん以外の役者は全て兼役なのは、時子さんにとっての世界に「他人」のバリエーションが少なくて、しかも白い、蜃気楼みたいな存在なのかもしれないなと。

ある意味ホラーめいていて。

 

「時子さんのトキ」自体は、恋愛ものというよりは「りさ子のガチ恋俳優沼」とか、最近話題になった小説「推し、燃ゆ」の系譜だと思うんですよね。

時子さん→翔真のベクトルは、推しを推すヲタクの言動によく似ているというか。

ただ、ラストから逆算して考えるなら、翔真は時子さんが推したかったけれど、父親のところに行ってしまった息子・トキの幻以上の何者でもなくて、だからこそ、クライマックス、前夫からトキのことについて責められたのと、何より「翔真の母親」の存在が明らかになって、翔真が自分の母のために時子さんからお金を借りたとわかった瞬間に、全てが醒めたのかなあ、とか。

 

翔真は翔真で、推してくれる人として時子さんを必要としていたんだろうな、とは思う。ただ、時子さんの言動は「推す人ー推される人」という範疇に収めるには過剰で、怖くなって、途中で恋愛っていう枠の中に押し込めて納得しようとしたけど、時子さんから拒絶されてしまって引くに引けなくなった、キャパの小さな普通の人なんだろうなと。時子さんから借りた金を返す甲斐性はないけれど、少なくとも、最後、北海道に戻ってから時子さんへの借金を踏み倒すことなく、毎月10万円払い続けるような、小さな普通の人。

 

時子さんは「昭和のおばさん」だと自称するけれど、スナックの常連の会長から金を借りる時に、自覚的に「前夫の名前を同意なく連帯保証人欄に記載する」っていう有印私文書偽造をやらかしてるんですよね。ここで倫理の壁を超えちゃってるのが、まあエグい。

 

エグいと言えば、デビュー30年経ってなおアイドルであり続けている高橋由美子と、ジャンル的にファンから推されることが一番その存在を後押しする2.5に長年関わり続けている鈴木拡樹に、時子さんと翔真/トキを当てる田村孝裕さんの脚本は、役者を一切甘やかさなくて凄いなと。

 

役者6人の会話劇、しかも時子さんのモノローグが殆どの中で、出っぱなしで喋り続ける高橋さんの胆力、言動の中の嘘と本当が次第に見えてくる、細やかな鈴木さんの演技、そして二人の嘘とその中の真実が見え隠れする二人の掛け合い。

伊藤修子さん、矢部太郎さん、山田森広さん、豊原江理佳さん、皆さん癖のある役をとても存在感のある演技で見せていて、その演技力の強さ素晴らしさにニコニコしてました。特に豊原さん演じる、既婚者の小夏さん(翔真りあこ勢っぽい強火担)が、ライバル的立場でありながら、思わず時子さんをかばうシーンがなんとも素敵で。

みんな、悪い人じゃないんですよね。だからこそわかりあえない立場になってしまう。

いや時子さんの前夫のDVは本当にあかんけど。連帯保証人の件は時子さんの前夫への復讐なのかもしれないとも思ったし。

 

ツイートまとめの中で岡田惠和脚本の話を書きましたけど、田村さん、去年岡田脚本の舞台の演出をされてたんですね。納得。

優しさと苦さの割合が近い気がします。田村さんの脚本の方が苦い気はするけども。

 

2020年9月、観客の私達がマスクをつけ、厳密に消毒や手洗いをして客席に座っているように、2020年9月の今を生きる板の上の人物たちがマスクをし、椅子を消毒している姿が、風刺ではなく今ここにある現実として描かれていることに、なんだかホッとしたりもしつつ。

時子さんも翔真もコロナ禍で収入が激減して、だからこそお金でつながっていた二人の関係が立ち行かなくなってしまう。そんな状況を今私も目の前にして、増えつつある自分の仕事に戦々恐々としているんですが、上記のように、ドラマではそんなシーンが描かれているのを観ていても、まだ演劇では観られてなかったんですよね、そういう状況。

1月から少しずつ、なんだか変なウイルスが広がり始めているという話を聞いて、一気に演劇がストップした3月。それから緊急事態宣言。止まった社会、死んだ経済活動。

そういう状況に早々に斬り込んでいったのがテレビドラマで、新型コロナウィルスとあまりにも相性の悪すぎる演劇は再起動するまで時間がかかってしまった。

 

私がこの国の演劇に対して抱いているイメージそのままだったので、正直苦笑するしかなかったんですが(「古い価値観をなかなかアップデートできないメディア」っていうのが強固にあるんですわ)、ようやく、納得の出来る「新型コロナウィルスを何とかやり過ごしていかなきゃ食い詰めてしまう、待ったなしの状態の今」の形を、演劇というメディアで出してもらえた気がしてます。演劇はそこ抉ってナンボでしょと思ってるので。

 

ファンタジーと生々しさの割合が独特で(時子さん周りはファンタジー要素大なんでしょうけど、ファンタジーというかまあエンディング直前まで時子さんにとって都合のいい妄想めいてますよね。そこに自覚的な演出だいすき)、観終わった今も据わりの悪さが残ってるのが、「ああ、演劇を観たなあ!」っていう満足感になってます。

 

丁度先日放送された、野木亜紀子脚本のドラマ「MIU404」の最終回がまさに2020年の今で、バディを組んでいる二人は車の中でマスクをし、ドラッグのオーバードーズで見た東京オリンピックは中止、聖火ランナーとしてのランニングも幻になってしまった。

そんな日常を私達が生きているように、板の上の時子さんは、翔真は、トキは、小夏は、みんなは、見えないウイルスに振り回されながら、どうしようもない人生を必死で生きている。

トキの姿が見えるようになった時子さんが、借金と罪を抱えてコロナ禍を生きてゆくのなら、翔真が実家に戻って、時子さんに借金を返済しながら暮らしてゆくのなら、どうしようもない私もとりあえず生きてていいんじゃないのか、と思えるようなエンディングでした。

 

そして私は宝くじは買えないと思いつつ、次のチケット戦争が待ってる訳ですが。時子さんは翔真は鏡だなとしみじみしてしまったのでした。

 

大阪公演も行く予定なので、とても楽しみにしています。

GoToトラベルのおかげで旅費が2/3になって、これもコロナ禍に生きる私の業なんだなあと苦笑しつつ。