ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

ミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」2021年リベンジ公演 感想

yuuki-sara.hatenablog.com

youtu.be

 

そんなこんなで。

お盆前にワクチン2回目を打ち終わり、直行直帰を徹底しつつ、1年半かけて、紆余曲折ありながらも、初日を迎え全公演走り抜け大千穐楽を終えたリトルショップ・オブ・ホラーズを観てきました。

今回は妃海風井上小百合の両オードリーが観られました…!(三浦くんの方はどうしても移動時間の関係でタイミングが合わなかったんですが…うう)

そして2週間の変化を観ることも出来ました。

 

去年のエントリにも書いてますが、私まーじで全くミュージカルの素養がないので、変なことを書いてたら「ああ、こいつは素養がないんだな」で笑い飛ばして下さい。

 

そもそも。

2020年3月、自粛期間が始まる直前、1年後にまさかこんなにδ株だのオリンピック無観客だのワクチン予約出来ないだので混沌が極まってるとは、という思いはあるんですが、まあ100年前のパンデミックは5年は続いたと聞いているので、ワクチンがこのスピードで普及しているのは福音なんだろうなあ。

とは言いつつも、東宝系ではレミゼもエニシング・ゴーズもナイツ・テイルも時期を前後してストップしてしまい、リトショも清水彩花さんが濃厚接触者の可能性ありで初日からしばらくの間お休みすることになって、3月の3連休前、果たして幕は上がるのか、ヒヤヒヤしながら最新情報をTLで追っていた日々を思い出したのですが。

 

そして、この1年半を取り戻そうとするような、物凄く気合の入った公演でした。

 

あらすじについては去年のエントリでも触れているので割愛。個人的にはサメ映画とかゾンビ映画を観た後みたいな感覚になる、「あー登場人物に馬鹿しかいねーな!」的古いアメリカンB級映画のノリは物凄く気楽だし、ハッピーエンド版とバッドエンド版の2つある中、あえて後味の悪いエンディングを選んだのは、やっぱり好きでした。

更にこの1年半で世界にはオードリー2ならぬ新型コロナウイルスが満ち溢れ、沢山の犠牲者が出て、人の体を蝕んだウイルスは変異を起こして凶暴化してますます広がる中、もうハッピーエンドはないことを2021年の人類は思い知らされているわけで、2020年より更に、今の状況にマッチする内容になってたなあと。で、露骨に創作として表現するにはあまりにも現在進行形なわけで、これくらいカリカチュアライズされてる方が気楽に観られるなあと。

とはいえ、「2人は幸せなキスをして終了」な未来に向けて、生き残った人々が「取り戻せ世界を!」と拳を振り上げながら、世界中にばらまかれた脅威と闘うしかないんだよなあ。私は演劇にそういうシビアさの先にある希望を求めているし、ピーキーなのに生々しいLSOH2020-2021が大好きになったんだよね。時期ってあるなってつくづく思いました。

 

さて。

2021年版は、2020よりも「シーモアとオードリーの恋」の比重が高い気がしました。2020の妃海風バージョンを観たときは、恋敵オリンが生きている間は、オードリーはそこまでシーモアのことを意識していないように見えたんですよね。でも2021年版は1幕からはっきり意識していて、でもナイトクラブ(といいつつも、映画「ハスラーズ」に出てきたみたいな、まあまあ「いかがわしい」場所だったんだろうな、と想像はしてしまう)で働いていた自分を拾い上げてくれたオリンから逃げられないっていう板挟み感が強くて。個人的には2021年の方が納得感があり。この1幕があるから、2幕の「Suddenly Seymour」のあとの2人のハグとキスしそうになるシーン(これは妃海オードリーのみなのかな?)に説得力が出るんだなあと。とても微笑ましくて悲しいシーン。

 

シーモアからのオードリーの感情も、2020よりもより明確になっていて、だからこそオリンに対する殺意が明確になるんだなあと。実は1度最前センブロっていう恐ろしい席だったんですが、オードリーに暴力を振るった上で連れて行ってしまうオリンに対して「シーモア今『こいつ殺す!』って思っただろ!!」っていう殺意溢れる表情が見えて、あまりにも恐ろしくて震え上がったんですよね。

で、鈴木シーモアは、オードリーへの愛が重いゆえに邪悪というか、自分から進んでオードリー2に籠絡されてしまう。むしろ、オードリー2が自分を解放してくれる言葉に乗っかって、明確に堕ちることを選択する、その瞬間にオードリー2と頷きあう、鈴木さんの演技もオードリー2の操演も最高でした。

YouTubeの動画を見て、この部分の2人のシーモアとオードリー2の演技が違うことにびっくりしたんですよね。結構物語の肝になる部分だと思うんですが、そんなに解釈違うのか。操演めちゃめちゃ大変だろうに2パターンあるの素晴らしい…。

なんとなく、「鈴木拡樹が髑髏城の七人で無界屋蘭兵衛をやったらこういう解釈になるのかな?」っていうのを観られた気もしたんですよね。髑髏を通過したヲタクなので、うっかり髑髏にたとえてしまうんですが。今回、最前列か最後列かっていう極端な席だったんですが、最後列で観たときにオードリー2の歌と言葉にシーモアの身体が揺れて引っ張られていくところの演技がすごく細かくつけられていて、目を見張ったんですよね。まあ言うなればオードリー2の甘い口説き(という名の1000年前からオードリー2をやってたんじゃないかっていうデーモン閣下のお歌)に堕ちてゆくシーモア・クレルボーンのシーンだし。まあオードリー2は天魔王様より全然凶悪ですが。天魔王様はなんだかんだかわいいもんな。

 

妃海/井上オードリーも随分解釈が違うんですよね。妃海風オードリーは悲劇のヒロイン、井上小百合オードリーは喜劇のヒロイン、っていう感じがしました。妃海さんは60年代アメリカ映画のヒロインの美しさ物悲しさをたたえていて、とにかく歌うまうまで素晴らしいし、小百合ちゃんは、今ここにいそうな地に足のついた女の子で、さらに唐突にアドリブをぶっ込んでくるのが面白くて、これは飛び道具だなって心の中でゲラゲラ笑ってました。コメディエンヌとしての度胸が好き。この1年半で、小百合ちゃんがシス・カンパニーに移籍したのに、演劇でやっていく覚悟を感じて本当にびっくりしたんですが(世田パブ行きがちなストプレ好き)、鈴木さんと小百合ちゃんのボニクラとかジョーカーとハーレイ・クインとか観てみたいなー。2人のシーンで光と同じくらい闇の濃さを感じたので。

なので、三浦くんのシーモアを観たかったなあと。スケジューリングの限界だった&売止でチケット増やせないwithコロナ時代の世知辛さ。

 

石井オリンは安定の盛り上げ役でした。自由に色々仕掛けているのが伝わってきて楽しかった。QUEENライクなコーレスが出来ないのは残念でしたが、配布されたコーレス専用ペーパーを持ち上げたり、オリンの振り付けを客席で真似たりで、この時代にはこの時代なりの盛り上げ方があるなあと。なんならキンブレでもいいのかもしれない(眩しいけど。オリン専用キンブレだけど。)あと、編集者の奥方をやっているときのおみ足がとても綺麗でした。いやマジで。

 

そして岸さんからバトンタッチ、阿部裕さんムシュニクは、岸さんに引き続いて厳しいけれどどこか父性を感じさせる「普通の人」で、シーモアやオードリーへの愛情が感じられるだけに、シーモアに裏切られた感のある死の悲劇性が際立ってた気がする。

朗々とした歌声が素敵でした。

 

ロウズィーズ(非公式)の皆さん。今回はピンチヒッターのラリソンさんを含めて4人でしたが、初日に間に合わせるために、必死でリハを繰り返したんだと思うと胸が締め付けられます。本当にお疲れ様でした。変幻自在の歌とダンスがさらに極まっていて素晴らしかったなあ。2020のときには思わなかったんですが、後半の「貴方に報いを」と歌う3人は「マクベス」の予言をもたらす魔女みたいだな、と。

まりゑさんは本当なら、チケットの取れていた「大地」でも観る予定だったんですよね。パルコ劇場には行けず配信で観たんですがとても素敵で。あーーー本当に悔しいな。コロナなんて嫌い。

 

そしてそして。

このたった2週間あまり、数にして12公演、6月まで上演されていた舞台『刀剣乱舞』で幕を上げることの出来た83公演の1/6もない公演数で、鈴木拡樹の歌が、表現が、目を丸くするくらい進化と深化をしていたなと。本当に驚いた。

 

去年のブログでも書いたんですが、音楽に関してはどうしても、持って生まれた能力による差って出てくると思うんですよ。絶対音感あたりは典型ですが。まあ私なんて12年エレクトーンやってても全然上手くならなかったしな。

ただ、ミュージカルの歌唱であれば、「演技力による底上げ」が出来るんだなって。

最遊記歌劇伝Sunriseのときに随分安定していて、これまでの三蔵と全く違うなあ、面白いなと思ってたんですが。

台詞に感情を乗せるように、歌に感情を乗せるというベクトルでの進化をしているのが面白くて、本当にもっと観たかったなあ。ちゃんとミュージカルだった。けど、演技も2020よりさらに鋭くなっていて。

去年のスケジュールのように地方公演が重ねられたら、多分もっともっと進化してたんじゃないか、もっと歌が聴きたいなぁと素直に思ったんですよね。テクニカルの部分は周囲の環境と場数なんだなっていうのが目に見えた12公演だったので。

「Grow for Me」の優しい感じから(とはいえまあ相手はアレなオードリー2だけど)「Feed Me(Get It)」の振り切れた感じまで、感情を乗せることによってこんなに変わるんだなっていうのが見られて、すごく楽しいし興味深かったです。

去年のLSOHのときに、歌での表現が手練の周囲と比べると追いつかない分、演技力で殴りに行っていて、多分そこから、新しい表現力っていうのが出てきたんじゃないか、っていうのをちょっと思ったんですね。

舞台『刀剣乱舞』无伝を観たときに(これも後でエントリ増やしたい)、「いやいやいや三日月宗近演じ始めて5年目とはいえ、普通に一部ラストと二部ラストで一路真輝様と1on1でこの情感を出せるのはおかしくないか?」と思ってたんですが、リトショ2020と2021で、歌を通した表現と演技的な表現と、2つの新しい光を見つけたのかもしれないなあと、2021が終わった今思います。1年半のブランクはあるけど、確かにこの2つは地続きで、ずっと演技プランを考え続けていたんだろうなと。

改めて思ったんですが、本当に演技がうまいなあと。何をもって「演技がうまい」と定義するのかっていう問題はあるんですが、板の上で人間の感情が生々しく息づいていて、何かをきっかけに爆発する、その過程に物凄く説得力があったんですよね。ちっぽけな、でもどこか歪んだものを抱えた人間が、その歪みを表に解放してしまう快楽に抗えない、そしてその先に訪れる破滅まで、軽快なナンバーを背に突っ走るドライブ感が、痛々しいんだけど奇妙な清々しさもあって。眼鏡を小道具にして、鬱屈と解放を表現するのも良かったなあ。

まあ、最遊記歌劇伝の13年を諦めなかった人が、1年半を諦めるわけがないよな。

 

そして、今回は大千穐楽の観劇が出来て、ラストにはキャスト全員からのコメントがありました。細かい部分は覚えていないんですけど、エモーショナルな言葉で盛り上げたボーイズ、最後まで励まし合っていたロウズィーズ、感極まった清水彩花さんのコメント、舞台の上で「私はこの風景を見るために女優をやっているんだ」と力強く告げたまりゑさん、もっと続きをやりたそうな石井さん、優しい笑顔を浮かべる阿部さん、「突然の千秋楽からの自粛期間中、生きている感じがしなかった」と思いを語って泣き崩れた小百合ちゃん。そして、座長として、「言ってもいいのかわかりませんが、初演から再演まで1年半ですが、企画から考えると3年以上あったのではないかと思います」と、スタッフを慮る言葉から入り、「リベンジ公演が大千穐楽を迎えたことが、演劇界の希望の1つとなるように」と祈るような、感極まった様子の鈴木さんの言葉に、こちらの背筋も伸びる気持ちでした。

30代に入ってから、鈴木拡樹の立場はプレイングマネージャー的というか、座長として演技面や集客で求められる部分と、座組を円滑に運営するためにリーダーの一人として全体を俯瞰する部分とを、両立させようと試行錯誤中なんじゃないかなと思うことが多々あるんですが、シアタークリエにおいてもそのスタンスは変わらなかったなあと。

 

板の上で生きることを取り上げられた世界のことは、観客の側の私には想像することしか出来ないのですが、1年半経って、皆さんようやく、あのときに残してきた心残りの欠片を、手のひらに取り戻すことが出来たのかもしれないなと。

 

とはいえ、地方公演のリスケジュールは今回難しかったのだろうし、他の座組が地方公演きっかけで公演中止の憂き目に遭っていることを考えると、まだなかなか難しい部分はあると思うのですが。出来るなら、鈴木さんがラスト、「ネリネ花言葉を調べてみてね。また会う日を楽しみに。シーモア・クレルボーンでした」という粋な影アナで残したように、またシーモアと、今度は地方で会える日が来るといいなあ。

 

そして。もう一つストップしてしまった、「アルキメデスの大戦」のリスケジュールも待ってます。本当に楽しみにしていたし、この1年半で配信の過去作品を観ることが出来、「劇団チョコレートケーキすげーいい!」と思ったので(残念ながらなかなかタイミングが合わず本公演には行けていないんですが、来年の再演祭りには是非行きたい)、東宝さんどうかお願いします。

 

もう一つ。完全に閉鎖されていたブロードウェイが再開して、その演目の中にLSOHが入っているのも感慨深いなあと。日本からアメリカへのバトンも、引き継がれますように。タロンとスカヨハの映画版も待ってるよ。

 

千穐楽の緞帳が下りて、最後列は規制退場が一番最後だったのですが、クリエのスタッフの方が「今日はスキッド・ロウにお越し下さいましてありがとうございました」という挨拶で案内をしてくれました。シアタークリエの居心地の良さは、クリエを愛するスタッフさん達のたゆまぬ努力によって成立しているんだなと。この1年半で一番居心地の良い、とても静かな、コロナ対策の行き届いた劇場でした。素晴らしかったです。

 

どうかシアタークリエが、ずっと幕を上げ続けますように。

 

youtu.be