ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

劇団少年社中『テンペスト』感想

退職と転職と引っ越し前のごったごたで忙しいを通り越して解脱モードになっておりますこんにちは。退職エントリは書かないけど転職試験受かりましたエントリは書いたら需要がありそうだなと思いつつ(多分まあまあ目指してる人が多いだろうレアケースなので)、守秘義務がありそうなので書けません。どこかの劇場で私に会ったら捕まえて聞いて下さい笑。

 

ということで、2024年最初の観劇は劇団四季の『WICKED』と劇団少年社中の『テンペスト』でした。去年の秋口にWICKEDのチケットがなんとか平日の1枚だけ取れていて、有休消化の関係もあって3日間東京に行くので、なにか一緒に行けるといいなと思って、最速の社中先行で1枚取ったのがテンペストだったわけですが、キャスト発表されて慌ててチケット増やしたり(土日マチネと大阪もキャス先で取りました)。

奇しくも、どちらも劇団の公演でした。商業演劇をあちこちフラフラしがちな私にしては珍しいんですけども。

『WICKED』はこんなんエルファバ強火担になるしかねーじゃろっていう内容で、とはいえ無知であることがきっかけで沢山のものを失って、それでも大切な友人を得たグリンダが気の毒でもあって、公開予定の映画がとにかく楽しみになりました。アリアナ・グランデのグリンダとシンシア・エリヴォのエルファバは観たすぎるじゃろ。そして四季劇場では丁度WICKEDとアナ雪の、シスターフッドダブルヒロインものが2つかかっていたっていうのも面白かったな。令和6年って感じだった(なんのこっちゃ)。

なおアナ雪も2回ほど観に行ってまして、機会があったら3回目も行きたいところ。Let It Goで早替えするエルサが好きすぎるんじゃ…。

 

さて、話の枕はここまでで。

以前、こんなエントリを書きました。もう6年も前なのかびっくりだよ。

以下敬称略!

 

yuuki-sara.hatenablog.com

 

私が観劇をするようになって、ああ、まだ解散していないときに観てみたかったなと思った劇団が2つあって、1つは三谷幸喜東京サンシャインボーイズ、もう1つは惑星ピスタチオなんですけども。

 

劇団少年社中はコロナ禍を超えて25周年記念公演を打ってくれて、そして、上記ブログで長々長々感想を書いたものの、当時は映像でしか観られなかった「鈴木拡樹が出ている社中公演」を劇場で観るという希望がついに叶いました。

 

www.shachu.com

 

鈴木拡樹✕少年社中✕シェイクスピアとしては『ロミオとジュリエット』以来の、少年社中のシェイクスピアものとしては多分『リチャード3世』以来の?(ピカレスクセブンではマクベス出てくるけども)作品になるんでしょうか。

 

初見で観たときになんだかわからないけど号泣して観終わったあとぼーっとしてて、何か感想がまとまればと思ったんだけど言葉としては出て来なくて。ついでに電車降りる場所間違えたりもしましたが。大楽まで観た今もなかなか言葉にならなくて、ただひたすら「演劇を浴びた」っていう感触が体に残ってるんですが、こういうときこそ無理やり言語化しておきたいので。

 

 

以下、ネタバレ前提で話をするのでごめんな! 円盤出るから買ってね!

宣伝か!!(宣伝担当ではありません)

限定版はコロナ禍中に配信された少年社中ライブストリーム『劇場に眠る少年の夢』も入ってるよ!

 

shop.toei-video.co.jp

 

 

 

 

 

 

【幸せだった。だから、俺も、みんなを幸せにしたいって思ったんだ。

なんの因果か。偶然か。俺は、あのとき見た劇団の舞台に立ってたんだな。】

(少年社中『テンペスト』台本より引用)

 

あらすじは公式サイト参照。15年前に劇団を追い出されたパワハラ演出家が、天才役者をコマにして、劇団に、演劇に復讐を試みる話…なのかな一応。

あと、囲み取材の様子はこちら。

 

youtu.be

 

大学時代にシェイクスピアの有名どころのはちょいちょい読んではいたんですが、『テンペスト』は未読で、観劇前に予習として読んでいきました。

 

戯曲の構造としてはかなりメタで、テンペストを上演している劇団虎煌遊戯の舞台上での経過、そのバックステージ、さらに15年前の虎煌遊戯の稽古場、劇団を離れた演出家ギンが天才役者ランにあって稽古をつけるようになるまで、が入れ子構造になっていて。とはいえ構成としてはかなりわかりやすく整理されていて、毛利脚本の丁寧さが凄く良い形で出ていたんじゃないかなと。

 

劇団虎煌遊戯が舞台上で演じていたのはテンペストでしたが、実際は『夏の夜の夢』だったり『マクベス』だったり、複数の作品がオマージュとして組み込まれてたんだろうなと。学がないので発見出来なかった…気づいた方教えて下さい。

 

で、毛利さんがあちこちのインタビューで今回言及してますが、毛利さんのルーツでもある早稲田劇研から生まれた劇団東京オレンジと、そこから出てきた天才役者・堺雅人へのオマージュでもあるのかもしれないな、と思いながら観てました。

 

natalie.mu

 

劇団出身の天才役者は天才であるが故に、その劇団を離れなきゃならないときが来るのかもしれないなと思うことが度々あって、個人的にそのパターンで真っ先に思いつく双璧は上川隆也堺雅人なんですが、『テンペスト』内にも、15年前に劇団に所属していた天才役者ゲキの存在があり。

 

ゲキは15年前に非業の死を遂げて、板の上に立つ幽霊として残ってしまっているけれど、そのゲキの心配事が昇華されて、笑顔で舞台を降りる話でもあり。それと入れ替わりで、新しい天才役者ランが、板の上でデビューを飾る話でもあり。劇団内で地道に続けてブレイクした苦労人カグラが、演劇の楽しさを取り戻す話でもあり、そのライバルシュンが、マサが、同期カグラとの関係を見つめ直す話でもあり、新人ヒナタがトラブルの嵐に巻き込まれる話でもあり……と余すところなく板の上の全員が主役で、自分の人生を生きていて、一人復讐の炎の中で荒れ狂っていたギンも、最後には自分の立ち位置を見直すことが出来るという赦しの話でもあり。

みんなの名前を出すと長くなるので割愛しますが、一人も捨て役がいなくて、何より劇団の看板である、おそらくとても愛されているアイコン的存在であろう井俣太良さんに、愛せるところの1ミリもない、難役を25周年記念に振ってくる毛利さんの、劇団少年社中への愛を見た気がしました。

 

個人的に、ギンを追い出したあとに主宰として15年劇団を支えてきたユッコさんの繊細さと、ギンに対して「許すわけないだろ一生悔やんでろ!」と叩きつけられる強さがとても好きで。

テンペスト』内における社中メンバーは、おそらく過去の色々を思い出して心の中で血を流しながら演じてたんじゃないかな、とも思ったので、皆様ゆっくりしてほしいです。いや、個人的に、各劇団の座付き作家が一番面白く個性的に書けるのは、おそらく劇団で一番経験しているであろう内ゲバものだと信じてるんですが(あさま山荘ものとかもその類型だと思ってるので)、殆ど自傷行為みたいなもんだとも思うので、本当にお疲れ様でしたとしか言えない…。

 

物語に関しては、作中では大団円とうたいつつ、物語が終わっても大団円にはならなさそうなオチなのを役者の力技で大団円のフリをする話だな! と後から思い返して面白くなっちゃったんですけども。こういうところもシェイクスピアっぽいというか。

 

パワハラが原因で劇団を追われたギンは、結局ハラスメントをやめられたかというと、新たに弟子入りしたランはリアルタイムで殴られていて、ギンは結局ハラスメントという名の暴力に対する反省と悔恨がないまま15年生きてきちゃってるんだよね。

ラストにギンは赦しを乞うけれども、まずハラスメント講習とリスペクトトレーニングと加害者カウンセリングを半年くらい受けないとアウト、くらいユッコさんに言ってほしいなあと。なんならランが被害届出して刑事処分受けるくらいじゃないと駄目かもなあと思いつつ、丁度最近アニメ「ハズビンホテルへようこそ」を見たところで、こちらは地獄へ堕ちた者たちと赦しのエピソードもある話なので、なんともタイムリーだなあと。

本人が変わりたいと切実に願って、変わることを心から信じるし喜ぶ周囲の支援があれば、人間は変わることが出来るっていう善性を信じる人たちの話なんだろうな、それくらい、社中メンバーは善性を信じている人たちが集まっているんだろうな、とある意味ホッとしたりもしたので。現実でも逮捕されて釈放された後に身元引受人がいるって大事なんだよな、と思ったりもしつつ。

 

個人的にこのキャストめちゃいいなと思ったのは、矢崎広と本田礼生と萩谷慧悟の3名。

ぴろし、苦労人が似合いすぎるんよ。テンション低めのカグラが声の大きさ=想いの強さの社中作品の逆を行ってるの上手いなーと。正統派シェイクスピアでもお目にかかりたい。

れおくん、エーステの映像を見たときに「めっちゃ上手いコメディリリーフやんけ」と思ってたら、本当にめっちゃ上手いコメディリリーフで腰抜かすかと。間の取り方とか見せ方とか上手い。コメディいっぱい観たい。萩谷くんとのダンスのシンクロとアクロ良かったなー。

そして萩谷くんはじめましてだったんですが、長年アイドルとして頑張ってきている子の0番力にニコニコしちゃいました。特に大阪公演、物凄く演技が磨かれてキラキラしていて、これは推しているファン達みんな幸せだったろうなーと。またどこかでお会いしたいなあ。

 

そして鈴木拡樹なんですが。とにかく、こんなに幸せなものを観ていいのかな、って終始思ってました。今も夢みたいだなあ。もっとチケット取れば良かったって後悔してるくらい。三人どころじゃない吉三を劇場で観られなかった後悔は今もあるんですが、テンペストを劇場で観られたっていうのは墓まで持っていける人生の思い出になるなーと。

色々な魅力がぎゅうぎゅうに詰まってて、かつ想像の遥か上をいくような上手さで、気がついたら目線が奪われてしまっていて、何より楽しそうに演じていて。

何から何まで良…だったんですが、特に好きなのは四国の海岸でギンが、ランの演じる「カゴツルベ(歌舞伎の籠釣瓶花街酔醒ベースの社中作品)」を目撃するシーンで。

それまで演じていたエアリアルから、すっと膝を撫でで座る仕草だけで、着物の裾をさばく様子だとわかる、しなをつくって八ツ橋花魁が斬られるまでを演じる、そこからくるりと回転しながら立ち上がって、八ツ橋花魁を斬った次郎左衛門を、斬った後の刀を握るマイムとともに演じる…、文字にすると味気なくなってしまう、ほんの1~2分のシークエンスに、私が演劇と演者に求める全てのものが詰まっていて、最初に観たときは震えました。しかも観るたびにシーンが深まっていくし。

 

ブログの冒頭で惑星ピスタチオの名前を出したんですが、座付き作家だった西田シャトナー氏は『舞台弱虫ペダル』に、惑星ピスタチオのパワーマイムの表現を継承させた、鈴木拡樹はその初演メンバーの1人で、今はもうない劇団の手法を引き継いでいるんですよね。ランはどこかペダステの荒北を彷彿とさせるようなガラッパチなキャラクターで(ランの方が相当フワフワしてるけど)、こういうのも(いんぷろ以外では)久々に観たなあと嬉しくなったし。

惑星ピスタチオは原初の演劇の表現手法に近いというか、役者の体だけでどこまで表現出来るかというのを突き詰めていたのかなと個人的には思っていて、それは鈴木拡樹が2.5次元舞台を経てきているからこそ継承出来たものなんですよね(そして惑星ピスタチオには佐々木蔵之介という看板役者がいますが、話がとっ散らかるのでこれ以上は言及しない)。

で、私が個人的にストレートプレイに求めているのは、役者の身体性を発揮した表現なので、カゴツルベのシークエンスを観たときに、とにかく嬉しかったんですよね。

 

ランのシーン全部好きなんですけど、強いてもう1つ挙げると、作中に出てくる『夏の夜の夢』のパックの台詞が2箇所にあるんだけど、最初にその台詞をランが言ったときは「ただ覚えていたものをそらんじた」だけだったのが、クライマックスで出てくるときには、観客に赦しと拍手を乞う、切実な内的要因から生じた「魂からの台詞」に変化していたところ。ランにとって、混乱のテンペストは自身の初舞台でもあった訳で、その中でラン自身の成長を演じるのにとてもスマートで、そして印象的な台詞だったなと。

 

観劇後に友人と色々話してたんですけど、「声に感情を乗せるのが凄くうまくなってる」っていう結論になって、それはこの数年、ミュージカル千本ノックをやってひたすら練習してきたことだろうし、髑髏城のときに演出のいのうえひでのり氏から言われたことで、確か長台詞のときに後半息が抜けてしまうみたいなのがあったと思うんですが、そこを直しにかかってるんだなあと。あと、個人的にランのエアリアルを観て「マスクのジム・キャリー(とその吹替の山寺宏一)だ」って思ったんですが、ランのエアリアルとゲキが入っているランとゲキのエアリアルとが全部違ってて全部わかるしランのエアリアルが劇中劇の進行とともに変化していったのも凄かったな…ランが公演の中でエアリアルを掴んでいく過程がわかるというか。全てがシームレスなのに輪郭がくっきりしていたの凄かった。

あと、「俺の目ェ見ろ!」のシーンを最初に観たときに下手側に座っていた私は無事死亡しました。あのシーンの気迫は本当に凄かったな…。凄いしか言ってないけど本当に凄いしか語彙がない。1公演ごとに倒れても構わないくらいの気持ちでやってたんじゃないかと思った。

 

作中でランは「空っぽ」という呪いをギンにかけられるけれど、クライマックスでギンに対して「今はたっぷり入ってるんだよ! あんたが教えてくれたものが!」で呪いを跳ね返すランの強さがとても眩しかったな。それは演劇と鈴木拡樹の関係そのものでもあるかもしれないし、全く違うかもしれないけども。

 

そして、毛利さんが「社中に出演する鈴木拡樹に求めるもの」も変わってきているんじゃないかなと感じた演目でもあり。

これまでは「俺の観たい鈴木拡樹」だったと思うし、今回もそれを感じるんですが、それ以上に、「役者として大成するために必要なものを全部やらせるし、自分の作品で鈴木拡樹が物凄く上手いし魅力的な役をやってるって色々な人にプレゼンしたい」みたいな気持ちもあるのかなと。東京オレンジと堺雅人、とは関係性が違うけれど、鈴木拡樹を今の鈴木拡樹たらしめたのは、地元大阪で美容師になって、親の店を継ぐつもりでいた人が、毛利亘宏脚本のたった1本の芝居を観て「役者をやりたい」と決めたことだと思っているし、毛利さんは鈴木拡樹にとっての少年社中が、堺雅人にとっての東京オレンジのような存在であって欲しいと願っているのかな、と何となく思ったので。

 

最遊記歌劇伝が外伝で素晴らしく美しい形で幕を閉じたのを見届けて、次に何が来るんだろうと楽しみにしていたんですが、なんならこれが今年ラストの観劇でも全然構わないくらい幸せな観劇でした(いや2月はオデッサ観るし3月はPPVV3観るけど)。キャスト全員で演劇を楽しんで、苦しんでいて、それを楽しむ観客の私の業を実感するひとときでもあって、そういうのも含めて本当に良かったな。

30周年記念公演『夏の夜の夢』も楽しみにしてます。ところで拡樹くんシェイクスピア劇何か出ない? タイタス・アンドロニカスとかでもいいよ(エグい)。

 

そして、2024年は個人的に、三谷幸喜東京サンシャインボーイズがシアタートップスで「リア玉」という復活公演をやる年として認識してます。まあ一度『Returns』で復活公演をやってるけど、途切れた何かがまた繋がるかもしれないときもあるし、去ってしまった堀池直毅さんのことを思い出しながら、ひとまずこのエントリは締めます。

 

円盤来たらまた何かまとめるかも。そのときにはもう引っ越して新しい仕事をしてるんだなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

最遊記歌劇伝―外伝―感想

前回のブログ更新から、腸閉塞起こしかけて1日入院したり、足掛け3ヶ月の転職活動からの次の仕事と引っ越し確定したり、去年の春の火事以降、怒涛の流転人生を送ってますこんにちはあるいはこんばんは(突然のハンドラー)。

このブログは役者のおたくがお送りしておりますので、原作への解像度は低めです。ご了承下さい。そしてとりとめがない。

 

そんなこんなで、刀ステ感謝祭とWhy don't you SWING BY?を観に行った感想を投稿しそびれちゃったりもしたものの(SWING BY?は私の「鈴木拡樹にはコメディに出て欲しい」欲を満たしてくれてサイコーだったし、ペンラとうちわ振るのめちゃくちゃ楽しかったので第二弾是非やって欲しい)

 

ということで、最遊記歌劇伝ー外伝ーを観てきました。東京1公演と大阪大千穐楽を含む3公演。あとは配信の東京マチソワ。結果として、毎日配信を再生する亡霊が出来上がったしアーカイブ2週間観られるのサイコーっすね。今も配信流しつつ本文打ってます。

 

私は遅れてきた鈴木拡樹ファンなので、最遊記歌劇伝については道すがら合流したクチで、原作読んで映像で後追いして劇場で観始めたのはDarknessからなんですけども。

歌劇伝については、「現地と映像の違いが顕著(劇場で観ると情報量も音圧も段違い)」というのをDarknessで身をもって知った&慌てて追いチケしたので、今回はあらかじめチケをなるべく押さえようとしたらなかなか取れなかったりしてヒヤヒヤしました。何とか無事に観られて良かった…。

なかなか押さえられなかったのがステラボールで、何とか取れたのが公式2次先行だったんですが、それで取れたのが2階センター寄りの最後列で。

実際座ってみたら特等席過ぎて震えました。映画館仕様のフカフカ椅子に座ってステージ全体が観られるのサイコー! ステラボールずっと2階にいたい。最近の歌劇伝のセットって機構は複雑だし段差はあるしで、1階だとどうしても死角が出来がちだったと思うんですが、2階はフルで観られて、同時に4箇所で展開される場面を視界に入れられるので、初見の情報処理のしやすさも段違いでした。今回オペラグラスをほぼ使わずに観劇していたんですが、とにかく1箇所で何かが展開する部分が少なかったので、配信も1回くらいは全景で観たかった気はします。全景の見応えが凄い。

なお、ステラボールは私と、デビュー作の雑誌掲載当時から読んでる峰倉かずや作品ガチ勢の友人と、逆にミリしらの友人の3人で観劇したんですが、全員泣きどころが違ったのと、ガチ勢の友人が観劇後震える指で追いチケしてたのも面白かったです。歌劇伝完結前に一緒に観てくれて良かったしきっと追いチケすると思ってた(笑)

 

原作の最遊記については歌劇伝を観る前に読んで、個人的に好きだなあと思ったエピソードが埋葬編と外伝なんですけども。外伝はまさかこんなに泣くか?!っつーくらい号泣して、自分でもびっくりしました。

皆上手かったし、何より、駆け足ではあるんだけど、脚本のまとめ方が素晴らしかったなと。外伝は元々の物語自体が面白いので、ある意味古典の脚本をやるような演目だったと思うんですが、三浦さんの上手い脚本編集と演出と新規にテーマ曲を書き直した浅井さんの音楽、そこに15年間積み上げて来たものが綺麗に乗っかって、さらに新しく来た風の後押しもあって、内容的にはほぼ全滅エンドでありつつも、後口が爽やかな始まりの物語だったなと。ラストに、自分から手を差し伸べる金蟬と、その手を取る悟空で締めたのもあるとは思うんですが。

 

ブワッと感情が溢れちゃって、何から書けばいいのかわからなくなりつつもとりあえずつらつらと。

詳細は峰倉先生のブログにあるので、遅れてきた私が何か言うのは野暮だなあとは思うんですが書く(笑)。

 

千穐楽は現地にいたんですが、唐橋さんが2幕のゲストコーナーに出てきた瞬間のどよめきと悲鳴が凄くて、おそらく誰もが期待していたと思いますし私もそうでしたけど、最遊記歌劇伝に拡樹くんと鯛ちゃんと唐橋さんがいることは、本当に大きくて太い柱だったんだな、と改めて感じました。エンディングで烏哭が歌に入ってきたときに号泣している方がいっぱいいらっしゃったし。

 

大阪については前楽マチソワと大千穐楽を観たんですが、別れを惜しむような感触は前楽の方が強かったかもしれないなと。大千穐楽はいつも通り、きちんと丁寧に魅せよう、っていう意識の方が強い感じがしたので。プロのいい仕事を観たなあ。

そして、観客席でも、役者の演技を余さず見届けようっていう集中力を凄く感じて、観客もまた役者の1人だなっていうことを改めて思いました。

 

外伝は元々悟空が主役の話だと思うし、幼い悟空が1人残されてしまう淋しい結末だとは思うんですが、鯛ちゃんの演技と、その対になる哪吒役のきたむーの演技力が拮抗しているのがとても良くて、何度も「え、演技がうめえ…っ!」と心の中で唸ってました。人は演技力で子どもになれる。悟空も哪吒もある意味被虐待児で、それを子役が負担するのは酷だから、どちらも大人がやるのは必須だったと思うんですが、鯛ちゃんがとにかく演技力オバケだから、同じくらい演劇モンスターなきたむーを持ってきたのは大正解だよなあと。二人ともソロの歌が真っ直ぐ心に入ってきて、とても切なかったなあ。

そして金蟬と対になる、悪の父親役を演じることになった、李塔天役の山﨑さん、とにかく台詞回しが素晴らしくて、シェイクスピア劇みたいな古典を観ているような感触があったのは山﨑さんがいらしたからかも。厭らしさと愛嬌が同居しているのが、余計にDV男みあるというか。

天蓬のふっきーさんと捲簾の平井くん、実は大阪でめちゃくちゃに泣かされたのが平井捲簾でした。情に溢れた優しい兄ちゃんが、幼い子どもを守りたい一心で死力を尽くす姿は泣くしかなかった。鮎川くんの後任でプレッシャー凄かったと思うんですけど、平井捲簾素晴らしかったです。

ふっきーさんは上手い人だと昔から思ってますけど、殺陣こんなに上手かったの?! まあ八戒は戦闘キャラじゃないからな?! ってびっくりしました(笑)いやーー今回狂言回しで台詞多いし歌も難しいし殺陣ガンガンあるしで体力的にも地獄だったのでは。カッコいいオーバー40。

毎回の歌うまゲスト枠の髙﨑くんと佐奈くん、佐奈くんは舞台パタリロで拝見しているんですが、どちらもエモーショナルで良かったなあと。佐奈くんはコメディリリーフもやって大変だったろうなーと。髙﨑くんはペダステの現福ちゃんと聞いて、ガタイの良さに納得したんですが、歌のときの高音部が綺麗で、慈愛を感じました。ラストの悟空を抱擁するシーン特に。そのあとに悟空の頭を撫でてあげる仕草がとても好きだったな。どちらも素敵だったなあ。本当にお疲れ様でした。

ミカシュンさんとうじすけさん、歌劇伝に欠かせない方々ですけど、ミカシュンさんの侍女はぱっと見わからなかったです。流石女優。三蔵一行登場〜GoTo the Westのパートで必要なお師匠ですけど、まあ烏哭出てくるのにあなたがいないわけにはいかないですよねえ…(笑)

うじすけさんも大阪ゲストコーナーで大活躍で、前楽のエンディングで菩薩様にくるりんとまわされてる姿がとても可愛かった。歌劇伝には欠かせないマルチプレイヤー素晴らしかったです。

あの複雑な機構に対応しつつ早着替えしまくり切り替えに切り替え殺陣もダンスも歌もこなすマルチタスクなアンサンブルの皆様もお疲れ様でした。天空の蟻をこのキャストの皆さんで観てみたかったな…!

 

さて。この1年近く、ほぼ歌モノの仕事しか入れてなくて、しかも1つは帝劇の座長で、東宝アニメーション制作の帝劇2.5のトップバッターとかいう、おそらく15年前には想像もしていなかっただろう仕事を経て、満を持しての最遊記歌劇伝最終作で外伝を迎えた拡樹くんですけども。

スパイファミリーから、さらに進化してて驚きました。スパイファミリー博多座のときに「えっ、人間ってどれだけ苦手なものでも、打ち込めばこんなに変われるんだな」ってびっくりしたんですが、そこを超えてきたなあと。歌に感情を乗せてぶん殴ってくる感じが凄かった。

歌劇伝外伝は全体的に「ミュージカルだ…!」と思うことが凄く多かったんですが、そのパートを結構な部分背負ってたのが金蟬だったなあと。1幕の悟空が狙われることに気づく金蟬ソロがめちゃくちゃ好きで。

三浦さん浅井さんもわかっててパートを振ったんだろうし、外伝は悟空が主役の話であって金蟬は座組の番手としては2番手だと思うんだけど、おそらく全部わかった上で、ブレずに引き受けた座長への、最後の餞なのかもしれないなと。

金蟬は残酷といえば残酷なキャラクターで、悟空に見返りを求めない情愛と約束だけ遺して消えてしまいますけど、その愛が大きければ大きい程、悟空の500年の孤独が重くなるし、愛された悟空が記憶を消された中でもよすがにしたものの尊さが見えてくるんですよねえ。大阪大千穐楽、金蟬が悟空に与えた慈愛の大きさに圧倒されました。拡樹くんと鯛ちゃんの15年が垣間見えるような。凄いものを見たなあ。金蟬が笑顔を見せて消えたあと、暴れて泣き叫ぶことしか出来ない幼い悟空がただただ悲しくて。

李塔天を斬るシーン、毎回「初めて人を斬ってしまった文官」の演技が細かいなーと思ってました。金蟬はどう見ても運動音痴だし、運動音痴の演技が細かい。

 

そして。前楽を観ていたときに、とても不思議な感覚になったんですが、15年前の鈴木拡樹が、板の上で演じているのを観ているような感覚になったんですね。

拡樹くん自体は15年分の経験を積んできて、今の立場にある訳ですけど、実のところ、ずっと三蔵を演じることにこだわり続けたのを個人的には不思議に思っていたりもしたんですが、この時にすとんと落ちたような気がして。

 

以下は単なる想像なんですが、初めて最遊記歌劇伝を上演したとき、拡樹くんにとって三蔵は、自分がこれから役者を続けるにあたって必要だと感じた要素を圧縮して固めたようなキャラクターだったのかもしれないなぁと。誰かに対する殺意だったり、演技だったり歌だったり殺陣だったり、何より座組の座長を務めることだったり。三蔵も言ってみれば座長みたいなもんですし。どんなに地獄を見ようと、それを身につけようと足掻いてきて、公演の度に自分の到達している位置を確認するような、三蔵は存在なのかもしれないなと。

で、金蟬は、三蔵を演じる上で必要な諸々を身に着けた上で改めて、「愛以外何も持たない者」を演じるっていう課題でもあったのかな、とか。

美しくて悲しくて一途な愛の話でした。そして長い時を経てまた受け取ってもらえる愛、それを一行が抱いて歌劇伝の最初に戻る、美しい円環を描いて終わったんだな(by峰倉かずや先生)、としみじみします。

 

この15年でおそらく、様々な役者としての経験を積むのと同じくらい、座長として責任を負うっていう経験をしてきていたと思うんですが、外伝で唯一、機構トラブルで中止になった翌日のマチネが観劇日でした。おそらく、その場しのぎの言葉も出せないくらい深刻な状況だったんだろうな、そして自分が「すみません」と言った瞬間にそれは機構の制作や修理に関わるスタッフの方々を責める言葉になるかもしれないと考えたのかもなぁ、と。だからこそ、チケットを取った方々への感謝の言葉しか言えなかったのかもしれないと思うと、この15年で背負ってきた責任の重さの一端を見たような気がします。座長って俳優部の長でもあり、スタッフ含むカンパニー全体の調整役もやってるでしょうから。想像もつかない重責ではありますが。

私も刀ステ悲伝の福岡中止回にぶち当たった側なので、機構トラブル回が唯一の観劇回だった方々の嘆きが我が事のように辛かったので、その時のことと、公演中止が当たり前になったコロナ禍で拡樹くんが座長を続けてきたこととを思い返したりもしました。

 

ラストの三蔵一行の登場のとき、演技プランとして、あえてSunriseのときと三蔵のプランを変えないでやってたんじゃないかと思ったんですが、「歌が全然違う…!」と思った瞬間に、鈴木拡樹が演じてきた玄奘三蔵はもういないんだな、と痛感して、外伝初見のときに号泣したんですよね。今に至る15年の旅の中で、拡樹くんが経験を積んで変わってきたものが自然に現れる演技プランだったなと。

 

いやもう、リトショに出ることの後押しをしたような形の山本耕史(初代シーモア)には感謝しかないんですよ。FCイベントで拡樹くんがチラッと、「耕史さんが(シーモアを)やっていたことが受けるきっかけになりました」と言っていて、多分あそこから拡樹くんの人生がめちゃくちゃ変わったんじゃないかと思うので。ヤマコーは責任持って私のために2人で「笑の大学」をやってくれ。私は拡樹くんの椿一が観たいんだわ。

 

千穐楽の終わらないカーテンコール、嵐のような拍手は凄かったです。愛されて幕を閉じる演目は幸せだな。

三蔵も金蟬も、記憶と記録の中でだけ会える存在になりましたけど、役者を続けてくれればいつかどこかの劇場で皆さんには会えるので。何ならあくたーずりーぐで会えたりもしますが(笑)

きっぱりと「記憶と記録の中でお会いしましょう」と拡樹くんが告げたときに、ペダステで荒北を卒業したときのことを思い出しました。演じてきたキャラクターを愛を持って手放せるってとても大事なことだし、三日月宗近ともきっとそういう別れ方をするのだろう、そして、キャラクターとお別れするときには、互いに最高の笑顔でサヨナラするんだろうな、と思えるような、あまりに美しい結末でした。

 

多分、今年1番好きな2.5…というかここ数年引きずりそうな作品になりました。最遊記歌劇伝外伝、上演してくれて本当にありがとうございました。きっと辛いときやしんどいときに、映像を何度も見返して記憶と記録を引っ張り出す作品になりました。ああ、お別れしたくないな。でも美しかったな。散り行く桜だから愛おしいんだろうな。

 

ミュージカル「SPY×FAMILY」を観たよ

 随分長いこと更新してませんでしたが、なんと去年の春に家の2階が燃えてしまい、今年の年明けまで避難生活してました。長生きしてたら家が燃えるなんてことあってたまるか!!! いやあったわ!!!

https://note.com/yuukisaranote/n/n152e1fa41650

詳細はこちら。

 大概色々な修羅場を潜り抜けてきましたが、電話で呼ばれて帰宅したら家から火が出てる光景ほど現実離れしたものはなかったです。リフォーム終わって帰宅して、みんな元気だしねこも元気だし周囲に延焼もなかったので今こうしてネタに出来てますが、今年の春は火事から1年後のフラッシュバックが酷くて寝込み気味でした。

 

 ただ、避難生活しつつも、普通に観劇はしてました。でも流石にブログをアップするだけの気力がなく。しにつかとかアルキメデスとか映画とうらぶとかも観に行ったし楽しかったし呉の大和ミュージアムは凄かったなあ。一時期広島に住んでたけど、呉に行ったのは初めてだったんですよ。

 

 そんなこんなで前置きはここまで。SPY×FAMILY、第一報を見た時、「おっ、最近人気のやつ、2.5を帝劇でやるの? すごいねーでもミュージカルだし私とは縁がないな」と思ってたら、キャスト発表で目玉飛び出るかと思ったSPY×FAMILYです。そこから慌てて全巻読んだらうっかりハマって、今は連載をリアタイで追ってますが、最初に帝劇に行くまで全く現実感がなかった。

 鈴木拡樹推しではありますが、これまで圧倒されたのはストレートプレイであって、ミュージカルに関してはそんなに……というのが正直なところではありましたし、しかも帝劇?! なんで?! っていうのが第一印象でした。ただ、「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」(特にリスケ後のバージョン)を観たときに、これが進化したらどうなるんだろうな、とは思ったので、帝劇は観光客のつもりで(何しろ東京の劇場に行くのは主に世田谷パブリックシアターと芸劇EWとPARCO劇場と今はもうないステアラの人間なので)、メインは気軽に行ける博多座だ、くらいに思っていたのですが。

 結果的に、全キャスト(全組み合わせは流石に無理でしたが)観る事ができました。いやーチケットって増えるんだな……ミュージカル好きな人が多ステするのわかったわーこれは色々な組み合わせで観たいやつ、という感じで。

 前提として、私はグランドミュージカル音痴で、消化酵素がなくて、博多座に来たグランド演目をちょいちょいつまんではいたのですが、大体首を傾げながら出ることが多かったので、元々受容出来るだけのセンスがないです。イケコとも派手に喧嘩するし。観たやつだと四季のアナ雪、ロボットインザガーデン(脚本が長田育恵だったので)、大竹しのぶ様のピアフ、ミュージカル日本の歴史あたりが印象に残ってます。日本の歴史は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のネタ元の1つでもあって、日本の2000年の歴史をアメリカの一家族に接続する叙述トリックの歴史ミステリみたいな話なんですが、観客に物語の持つ情報を圧縮して伝えるのに「歌を道具として使う」のが面白かったんですよね。

スリル・ミーも山崎松岡バージョンは観たけど、あれをエンタメとして消化するにはちょっと重かったな……。つーか、分かりやすくヘテロロマンスが中心に来る作品が苦手で、グランドミュージカルはそこがメインになっちゃうものが多いので、自然にノットフォーミーになってしまうんですよね。宝塚もそうなんですが。いわゆるオフ・ブロードウェイ作品の方が自分の志向には合ってるんだろなと思いつつ、ミュージカル観るよりはストレートプレイを選んでしまうので。2.5だとミュージカルでもロマンスがメインに来るものがあんまりないので、気楽に観られるんですよね。あと、ビッグナンバードーン!! みたいなのがどうにも気恥ずかしいのもあり。エーステとかモリミュとかは配信や日テレプラスで観てるだけですが。

 映画はちょいちょい観ていて、レ・ミゼラブルとかザ・グレイテストショーマンとか、あとDプリンセスものは一通り観てるかな。あとは個人的にデイミアン・チャゼル監督が好きすぎるのでセッションの流れでラ・ラ・ランドを観て地獄に叩き込まれたりとか。映画のウィキッドも楽しみにしてます(四季のウィキッドも来年行く予定)。中指立ててる映画のシシィも楽しみですよ。韓国ミュージカルも興味はあるし、東京行くよりは韓国行くほうが近いので、お金が貯まったら行ってみたいなあ。

 

 こんな感じでミュージカルに対する教養と受容体がほぼゼロの人間なんですが、帝劇で最初にSPY×FAMILY観たときに、まーーーーーー楽しかったんですね。まんま漫画の台詞を旋律に突っ込んでいる上であの膨大な台詞量っていうある意味反則技ではあるし(笑)、子役のアーニャに過剰な負担をかけられない分まで狂言回しの仕事を背負うことになった二人のロイド・フォージャーは段取りも台詞も歌もアクションも大量で、あれを2ヶ月で複雑な盆の機構と出ハケまで含めて叩き込むのは地獄だったんじゃないかと思うんですが(ロイド二人はステアラで座長やってるから複雑な機構に対応した経験があるにしても)、「やることが……やることが多い……!」っていう過剰さがもたらすグルーヴ感が、いい感じで舞台上の緊張感に繋がってたのかなあと。

 そして、作品全体がメタ・グランドミュージカルというか、歌われる感情は全部偽物だしロマンスはどこにもないし(失恋はあれど)ロイドもアーニャもヨルさんもユーリも夜帷も(以下略)全員嘘をついていて、真実はどこにもないんだけど、それでも帝劇の板の上に乗ってて、満員の観客がその嘘を面白がって楽しんでる、その状況のメタさがとても面白かったです。

 

 ウィンくんのロイドは博多座で観たんですが、当たり前に歌がうめぇなと。で、プリンシパルキャストだなーと思いました。キラキラしてた。ウィンくんはウィンくんで、そのスター性が板の上に乗ってて、アニメのロイドみたいなイメージがありました。ミュージカル観たな、っていう感想。で、同じく出自がボーカルの佐々木美玲ヨル回だったんですが、凄くバランスが良かったなーと思いました。観られたの1回だけだったのであとは有識者の感想を見てくれ。印象的だったのは結婚契約という名のプロポーズのシーン。普通にロミジュリ観てるみたいだったな。

 

 で、拡樹ロイドなんですが、ごめん本当に正直、博多座のラストまでであんなに歌が上がると思ってなかったです。焼き土下座。ファンが無理だろうって思ってたものを鈴木拡樹本人は全く諦めてなかったんだなってことに震えました。凄い執念だなと。ずっと歌が上がり続けてた。勿論音の取り方だったりリズム感だったりっていうのはある種才能がものをいう世界だと思うので、努力だけでは埋められないものがあるんだけど(12年エレクトーンやってて全くうまくならなかったマンがここにいる)、歌に感情を乗せる塩梅がとても良くなっていて、それで博多座でガンガン良くなっていったのがアーニャとのシーンと、イーデン校の最終面接だったなぁと。アーニャ4人はみんな違ってみんな天才で努力家で、全員素晴らしかったんですが、アーニャへ余計な情を抱かないようにしよう、っていうブレーキが外れて暴発してしまう、でもそれがきっかけでロイドとヨルとアーニャの疑似家族感が強まっていく、凄くいいシーンに仕上がっていて。拡樹くん前楽の5/20は唯月ふうかちゃんのヨル回だったんですが、二人とも芝居歌でガンガン感情が伝わってくるしハーモニーも綺麗だし、何より面接のシーンの仕上がりがとても良くて、思わず泣いてしまったのでした。

 元々ストレートプレイの部分では、ここ数年特に「うめーなぁ……」と思うことが多かったんだけど、改めて、観客への魅せ方のバリエーションが多いなと思ったのと、間のとり方が特にコメディだと抜群にいいんだなと。そしてネイティブ関西人なのを思い知る(笑)。同じく関西人のけんしんアーニャが同じ間の持ち主でニコニコしちゃった。

ウィンくんの間のとり方と全く違ったので、ウィンくん回を初めて観たときに「えっ同じ役?!」ってびっくりしたのでした。優劣じゃなくて解釈と間と台詞の強弱の位置が全然違うのよ。

 拡樹くん、東宝の仕事だとコメディが多くて、コメディが観たい私は大歓喜ですよ。コメディは上手くないと悲惨なことになるので。もっとコメディやってくれ。なんならヤマコーと「笑の大学」やってくれたら全私が成仏する(いきなり三谷幸喜)。

 そして、父親役が素晴らしく似合ってるので、これから増えてほしい。カーテンコールで必ず膝をついて目を合わせてアーニャ達と会話をしていたのは眼福でした。もっとやって。

 

 佐々木美玲ヨルさんと唯月ふうかヨルさん、瀧澤翼ユーリと岡宮来夢ユーリもみんな違ってみんな良くて、朝夏まなとハンドラーは脚が長いしヘンダーソン鈴木壮麻先生は圧巻の歌声とお茶目さだし山口乃々華フィオナと木内健人フランキーは面白かわいそかわいいし、アンサンブル・オーケストラの皆様も圧倒的で良かったんだけど、梅棒・楢木さんの振付けしたダンスの、博多座3階から観たときのミザンスがとても美しくて惚れ惚れしたのと、ヨルさんのアクション吹替をやっていた依里さんのアクションがとても良かったのは書き残しておきたい。

通常の舞台アクションだとある程度被せを計算して(アクションの相手とは実際当たらないように安全性を考慮しつつ)距離を空けて殺陣つけをしてると思うんだけど、博多座3階から観てたら、拡樹くんと依里ヨルさんのラストの1対1のシーンで依里さんが拡樹くんに当てにいってた(当てないにしてもギリギリまで距離を詰めてた)ので、「おおっ手練れ同士のアクションだ!!」って興奮しました。拡樹くんもステゴロアクションはPPVV以降随分やり慣れてるだろうし。拡樹くんも依里さんも、他の人とのアクションシーンではかなり距離を取ってた(そして配信のときにアクションでリフトやってたのがなくなってたから、多分どなたかの関係で殺陣つけを変更したんだろうなと思いつつ)ので、生の舞台でアクションシーンやるのは大変だと思うんだけど、最後まで魅せるアクションを追求してたのが素晴らしかったなって。依里さんはそのためのアクションキャストだしね。

 

 アーニャ4人はみんな凄くてみんな天才でした。池村碧彩、井澤美遥、福地美晴、増田梨沙の皆さんそれぞれ個性的で、元気いっぱいで、出てくるだけで観客が溜息をつくような華があって。個人的に一番観た、初舞台とは思えないような貫禄のあった「けんしん」福地美晴アーニャと、出てきた瞬間「ダンスがうめえ」ってわかる、そして演技にアドリブぶっこむ(大人たちもちゃんと受ける)増田理沙アーニャのインパクトが凄かったです。リアル子役だと、原作でのアーニャのポジションのグロテスクさが際立つんだけど、それもある程度わかってやってる感じだったし、冒頭でロイド子役と10巻のロイド過去エピソードを出すことで、アーニャとロイドが互いに鏡写しであることがクローズアップされてたなと。ただ、座組の中でのアーニャは、出ハケが大道具に乗せられたままか、大人に手を引かれながらか、ロイドに抱っこされながらで一人になるときがなかったし、もう一人のアーニャが脇役として入って、いつでも交代出来るシステムになってたしで、こちらは安心して観られたなあと。カーテンコールでアーニャが大人キャストたちから愛されてるのを感じてほっこりしたし、前楽のけんしんアーニャラストのご挨拶で、あまりにもしっかりした内容に周りの大人キャスト達が号泣してて、木内さんが気づいて崩れ落ちるのに爆笑してしまった。

 

漫画だと笑える「こいつやべーな」が、実際の人間がやると洒落にならないのがヨルさんだったと思うんだけど、ふうかヨルさんも美怜ヨルさんも、可愛さと恐ろしさとギリギリの塩梅を攻めていて、とても好きでした。豪華客船編観たいから東宝は企画してくれ。

 

瀧澤翼ユーリはわんこ系弟キャラ、岡宮来夢ユーリは割と毒々しさが前面に出てくる方のキャラ立てをしてたんじゃないかと思うんだけど、タキツバは歌にしてもダンスにしてもキレキレで逸材だなって思ったので、今後も色々なところで観たいです。岡宮くんは放っといてもグランドでプリンシパルやるタイプだろうしね。

 

 大楽後に鈴木拡樹FCイベに行って、SPY×FAMILYの振り返りの話を聞けたんですが、「立ち上げだから呼ばれたところもあるかも」っていう話をチラッとしていて、確かに、ペダステ、刀ステと、東宝案件で長く続いてるシリーズの初演立ち上げに関わってるんですよね。

ペダステは海のものとも山のものともつかない状態から初日を迎えて千秋楽は満員、インハイ3日目では当日券待ち1,000人とかいう伝説もあるし、刀ステは刀ステでシアター1010から明治座ステアラとデカい箱常連になってるし、そういう大きな座組で座長をやることに慣れてるのが、プレイングマネージャーとして買われてるんだろなあと。

そして、拡樹くんの東宝本体での仕事を考えたときに、リトル・ショップ・オブ・ホラーズを受けたことが大きな転機になったのではないかと思ってるんですが、出ようと決めたきっかけになったであろうヤマコー(初演シーモア)はちゃんと責任取ってまた共演してくれ。待ってるよ。ヤマコーが家に招待するほど仲良くなってるのなんなの(笑)ヤマコーなら勿論責任取るでしょうけども。

 

5/21、拡樹くんの座長としての最後のご挨拶のとき、いつものように、キャスト・スタッフの人数を紹介して御礼を言う姿に安心しつつ、続けて大楽の配信で、休演なく全部届けられたキャスト全員が揃ってご挨拶をしたのを見届けて、コロナ禍の次のフェイズに移ってるんだな、としみじみしました。勿論第九波は現在進行形ではありますし、今また休演が増えてはいますけど。

 

そしてそして。拡樹くん37歳最後の仕事は半年かけたなかなかな大プロジェクトだったと思うんですが、38歳最初の、三浦宏規くんとのシーモアを超えた初共演楽しみです。で、今の拡樹くんがやる歌劇伝外伝がめちゃめちゃ楽しみ。

 

何より。もし叶うなら、SPY×FAMILYは続編をやって欲しいなあと。豪華客船×いばら姫×ロイドとアーニャののんきな船旅編を待ってます。

本当に楽しかった!!

舞台「バクマン。the STAGE」感想

すっっっっごい気が狂ってて2.5で演劇で小劇場だったな!!(キャパは小劇場じゃないけど)冒頭の斉唱から「え、演劇観てる~!!!」っていう満足感がすごくて。

元々小さな座組でやる芝居が大好きなんだけど、9人でアンサンブルなしでTDCHが狭く感じるって凄いなと。上手い人しかいないって観ていて本当に安心出来る…。

小劇場っぽい芝居で構成すればどんな大箱でも小劇場になるんだなっていう変な納得をしたりとか。

そもそもあの水盤舞台セットとプロジェクションマッピングと膨大な書き下ろしの音楽とあの役者陣なだけでまあまあ制作費を突っ込んでると思うんですが、そこから物凄くミニマムなんだけど派手なエンタメに落とし込んでるのが凄かった。

キャスパレ前にリアル週刊少年ジャンプ漫画のカットがまるで走馬灯のように流れて、それだけで泣きそうになったのであの演出は本当にズルい…。

 

とりあえず今年観た2.5で暫定一番好きなやつかもしれないです。

(ストプレカテゴリだと今のところ劇チョコの「帰還不能点」と水野美紀作・演出の「テクタイト」かなあ)

 

私が2.5を追うきっかけになった作品は「舞台 弱虫ペダル」のIH1日目で、やっぱりペダステ1年目は物凄く特別なんですが。

そこから2.5に興味を持って、観るようになった作品に「ハイキュー(以下ハイステ)」と「黒子のバスケ」があって、ハイキューに関しては原作ガチ勢というわけではなかったんですが、なんとなくチケットの取れた福岡公演(2作目)を観たときに、ウォーリー木下さんの演出と、和田俊輔さんの音楽、そして須賀健太を筆頭に若手の熱量が楽しくて、結局須賀健太卒業までは劇場で追い続けたっていうのがあるんですよね。

ということで、実は2.5の中でもスポーツ系のストプレは特に好きジャンルだったりするんですが。

 

ハイステを観たときに、橋本祥平くんのノヤっさんが物凄く印象に残っていたのと、何度か「ああ、ここはペダステのオマージュなのかもしれないな」と思う場面があったんですが、ウォーリー木下さんが関西小劇場出身と知り、本当にオマージュだったのかもなっていうのをバクマン。を観て思いました。

舞台センターにぶら下がってるGペンは、ペダステで天井から下がっているロードバイクと同じカテゴリかなと思ったし、あとオープニングの自転車漕いでるシーン。ハンドルはないけどまあペダステのアレにならざるを得ないですよね座組に荒北靖友がいるんだから。

荒北靖友を結局リアルタイム時には劇場で観られなかった私、あのシーンでガチ泣きしそうになりましたよ…。ありがとう…。演劇は繋がっているし、いつかどこかで観たかったものが観られる日が来るんだなあ。

 

あと、印象的だったのは、和田俊輔さんの音楽が、音数をギリギリまで減らした引き算の劇伴になっていたこと。和田さんがご自身のVoicyで「バクマン。に関してはサウンドデザイン的なことをした」と仰っていたんですが、9人の役者それぞれの演技の圧が強い中で、音楽を盛ってしまうと過剰になりかねなかったと思うんですが、そこを抑えてきたセンスがすごいなあと。

 

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ハイステは盛ってる方向だと思うんですよね。各学校ごとにテーマ曲が決まってて、試合と同時にテーマ曲劇伴バトルをやってる印象があるし。その他だと、TRUMPシリーズには「ライネス」っていうあまりにも作品全体を象徴する曲があって、作品ごとに明確な方向性のある音楽家だと思うんですが、バクマン。の旋律らしい旋律を最小限にした、効果音のような劇伴も素晴らしかった。

 

原作を、物語の時系列ではなく、感情の流れで繋ぐことに割り切った脚本演出構成も、思い切ったことをしたなーと感心しました。プロジェクションマッピングも、具体的な部屋の中だったり、セット的なものとして映像を使ってないんですよね。漫画の擬音だったり、原稿だったり。

 

まー「バクマン。」と言えば未だにあちこちで擦られまくるくらい「過去の漫画とはいえ価値観がヤベえ」漫画の1つだと思うし、実際舞台化するときに、どこまでそれを再現するのかと思ってたんですよね。

個人的には、何が一番ヤバいかって、シュージンにしてもサイコーにしてもその他のキャラにしても、キャラクターづけとして「漫画に人生を捧げたやべーレイシスト」っていう軸が大きくあって、令和の今そのまま舞台に再現させたら大炎上ものだったと思うんですが、「レイシスト」部分を物語から切り離して劇中劇パートを増やすことで、なんとかヤバめの価値観を軽減して、きれいなバクマンに仕上げたんだなあと。亜豆やかやちゃんを出すために女性の役者をあてていたら、男性キャラのレイシスト具合が地獄みを帯びてたんじゃないかと思うので(あと尺の問題もあるだろうけど)、そこは納得しました。

令和のジャンプヒロインが竈門禰豆子や胡蝶しのぶやお茶子や梅雨ちゃんや釘崎野薔薇だと思うと、やっぱり今のものではないしね。

サイコーのプロポーズはサイコーのヤバさっぷりを語るのに外せないと思うので、祥平くんが亜豆ボディを演じたのはわかるかなと。

 

ただ、これはもう原作のバクマン。の問題だと思うんですが、「レイシスト」部分を切り離すと、サイコーとシュージンのキャラが薄くなるんですよね。そこまでレイシストであることがキャラクター性と切り離せないっていうのもすげーなとは思うけど。新妻エイジレイシストであることから切り離されたキャラクター性を持っているので、単体でキャラが成立するんだけど、サイコーをレイシストであることから切り離すために必要なキャラ立てとして、おじさん・川口たろうがサイコーの守護霊になることが必要だったし、ラストの大阪公演で、担当の服部さんが、シュージンの父親代わり的な雰囲気を出してきて、そこでシュージンの父親との相克の物語が補完された感じだったのが、舞台版としてのオリジナリティになってたなあと。

まあ、元々演劇作品は「古い戯曲のヤバい価値観とのせめぎあい」という命題を抱えているし、価値観は変化するものなので、令和3年のバクマン。としては全然アリなんじゃないかなと思いました。まだガラケーだった時代、アナログで漫画を描いていた時代の話だなっていうのは小道具で提示をしているし。今ならスマホだしフルデジタルだし、週刊ジャンプで連載しても一応きちんと休みは取らせる方向になりつつあるしな。何より集英社自体が「ジャンプ+」っていう巨大なWEB媒体を持って、作家の性別関係なく作品がバズる時代になっていて、さらに言うとマンガ市場バクマン。連載当時より拡大していて、おそらくアニメ化の効果って全世界に届くっていう意味でも当時よりさらに大きいと思うんですよね。

マンガ市場は連載当時から激変していて、何もかもが停滞している日本の中でもマンガはそういう媒体だし、2.5もそういうジャンルだと思うので、また数年後にバクマン。を上演したら、きっともっと脚本は刈り込まれるんだろうなという気もしました。

 

とはいえ、「漫画に人生を捧げたやべー」部分というのは残って、まあサイコーが入院しながら原稿を描くシーンから連載続行、のシークエンスは最近呪術廻戦の休載があっただけに「ひえっ」と思ったわけですが、ここが切り捨てられないのはまあ、キャスト9人が9人とも、そしてスタッフの皆さんも、このコロナ禍の中、感染の、命の危険性を常に背負いながら、お客さんが来られないことも全て背負った上で、大きな舞台に立ち続けたある意味クレイジーな人たちで出来ているからだろうなと。

それをエンタメとして享受して消費している私には、心配はしても否定はしきれないんだよなあ。苦笑するしかない。

主演2人は正気の沙汰とは思えないステアラ半年間公演を、途中ストップを挟みつつも大楽まで走り抜けているし、祥平くんは何度も走り始めた公演が中止になって痛い思いをした、けれど何度でも舞台に立ち続けている、その「演劇に人生を捧げたやべー」人たちだから、ああならざるを得なかったんだろうなとも思います。

ウォーリー木下さん脚本・演出のハイステも、よりによってシリーズ最終作がコロナ禍でとても悲しい終わり方をせざるを得なかった、どれだけ努力しても気をつけてもどうしようもない世界の中で、こうあればいいのに、っていう夢のようなシークエンスなのかもしれないなと。

原稿を仕上げて提出したあと、サイコーは実際にそこにいるというより、川口たろうみたいに霊体だけそこにあるような存在の薄さを感じたんですよね。まあ実際は入院してるわけだから、あのシーンはイマジナリーサイコーじゃないかと個人的には思ってるんですが。

原作だと確か休載期間があったと思うし、亜豆が原稿手伝うくだりもあったと思うんだけど、まあ普通に考えてマンガ描いてない素人が手伝ったところで猫の手にもならんだろってやつだしな…。

 

演技については、「みんな上手い! 以上!!!」って感じになってしまうんですが、No.9のときにあまり絡んでいなかった拡樹くんとギリジンさんがまさかあんなにずっと一緒だと思わなかったので嬉しかったです。サイコーとたろうおじさんの空気感が凄く柔らかくて。あと、シンプルな舞台だから、拡樹くんのパントマイムの上手さが見られてよかったなあ。ドアを開けるシーンとか、インク瓶の蓋を開けるシーンとか。

あと、「だが断る!」はみんな観たかったやつだよね(主語が大きい)ありがとう。

 

全体的にみんなとっても仲良さそうなのと、あらまっきーが物凄く楽しそうだったのが印象的でした。あと編集会議で笑い崩れる唐橋さん。編集会議の村上さんとギリジンさんの日替わりは徐々にスケールアップしてて凄かったし、それによって編集部員が笑い死んで進行がストップするレベルなの面白かったです。

祥平くんの新妻エイジは水を得た魚のようだなと思いました。合うと思ってたけど本当に合うなーと。ノヤっさんを初めて観た時を思い出してニコニコしてました。そして平丸役の福澤侑くんの身体がキレッキレなのすごかった。オレノさん村上さんとの空気感もとても好き。オレノさんは編集会議で巻き込まれ事故を食らってた回があって、必死で立て直してたのが印象的で。でも強面漫画家すき。

そして丁度NACSの新作でマギーさんの演出を観たばっかりだったので、元ジョビジョバの長谷川さんがいらっしゃるのは凄く不思議な感じでした。なんだかんだ90年代の小劇場に物凄く憧れがあるし、特に長谷川さんは映像で観ることが殆どだったので。長谷川さん、大楽でシュージンのもうひとりの父親的ポジションに見えたシーンがあって、これは銀劇やTDCHでは感じなかったので、役は役者が育てるものなんだなってしみじみしてました。

 

TDCHはたまたま一緒に行った友人も観劇タイミングが重なった友人もNACSの北海道時代からのファンで、あとラーメンズのファンだったり村上さん主宰の劇団員が客演している舞台をちょいちょい観てたような人たちなんですが、そういう友人と2.5の話をして盛り上がれるっていうのも不思議だったし、皆ワクチン接種終わって落ち着いて、感想を話し合えるありがたさと来たら。

 

そして何より。

銀劇3階から見下ろしたプールの水の飛沫や波紋が、時には汗だったり涙だったり、心情をあらわすスクリーントーンの模様に見えたり。雨降らしをプロジェクションマッピングのスクリーンにする発想もですが、全体的な演出の洗練された感じが凄かったです。

あー、演劇観たな!!

楽しかった!! この座組でまた芝居やってほしいな!!

楽しいっていう思い出を持って帰れる作品に出会えたことが嬉しかったです。

 

 

ミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」2021年リベンジ公演 感想

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そんなこんなで。

お盆前にワクチン2回目を打ち終わり、直行直帰を徹底しつつ、1年半かけて、紆余曲折ありながらも、初日を迎え全公演走り抜け大千穐楽を終えたリトルショップ・オブ・ホラーズを観てきました。

今回は妃海風井上小百合の両オードリーが観られました…!(三浦くんの方はどうしても移動時間の関係でタイミングが合わなかったんですが…うう)

そして2週間の変化を観ることも出来ました。

 

去年のエントリにも書いてますが、私まーじで全くミュージカルの素養がないので、変なことを書いてたら「ああ、こいつは素養がないんだな」で笑い飛ばして下さい。

 

そもそも。

2020年3月、自粛期間が始まる直前、1年後にまさかこんなにδ株だのオリンピック無観客だのワクチン予約出来ないだので混沌が極まってるとは、という思いはあるんですが、まあ100年前のパンデミックは5年は続いたと聞いているので、ワクチンがこのスピードで普及しているのは福音なんだろうなあ。

とは言いつつも、東宝系ではレミゼもエニシング・ゴーズもナイツ・テイルも時期を前後してストップしてしまい、リトショも清水彩花さんが濃厚接触者の可能性ありで初日からしばらくの間お休みすることになって、3月の3連休前、果たして幕は上がるのか、ヒヤヒヤしながら最新情報をTLで追っていた日々を思い出したのですが。

 

そして、この1年半を取り戻そうとするような、物凄く気合の入った公演でした。

 

あらすじについては去年のエントリでも触れているので割愛。個人的にはサメ映画とかゾンビ映画を観た後みたいな感覚になる、「あー登場人物に馬鹿しかいねーな!」的古いアメリカンB級映画のノリは物凄く気楽だし、ハッピーエンド版とバッドエンド版の2つある中、あえて後味の悪いエンディングを選んだのは、やっぱり好きでした。

更にこの1年半で世界にはオードリー2ならぬ新型コロナウイルスが満ち溢れ、沢山の犠牲者が出て、人の体を蝕んだウイルスは変異を起こして凶暴化してますます広がる中、もうハッピーエンドはないことを2021年の人類は思い知らされているわけで、2020年より更に、今の状況にマッチする内容になってたなあと。で、露骨に創作として表現するにはあまりにも現在進行形なわけで、これくらいカリカチュアライズされてる方が気楽に観られるなあと。

とはいえ、「2人は幸せなキスをして終了」な未来に向けて、生き残った人々が「取り戻せ世界を!」と拳を振り上げながら、世界中にばらまかれた脅威と闘うしかないんだよなあ。私は演劇にそういうシビアさの先にある希望を求めているし、ピーキーなのに生々しいLSOH2020-2021が大好きになったんだよね。時期ってあるなってつくづく思いました。

 

さて。

2021年版は、2020よりも「シーモアとオードリーの恋」の比重が高い気がしました。2020の妃海風バージョンを観たときは、恋敵オリンが生きている間は、オードリーはそこまでシーモアのことを意識していないように見えたんですよね。でも2021年版は1幕からはっきり意識していて、でもナイトクラブ(といいつつも、映画「ハスラーズ」に出てきたみたいな、まあまあ「いかがわしい」場所だったんだろうな、と想像はしてしまう)で働いていた自分を拾い上げてくれたオリンから逃げられないっていう板挟み感が強くて。個人的には2021年の方が納得感があり。この1幕があるから、2幕の「Suddenly Seymour」のあとの2人のハグとキスしそうになるシーン(これは妃海オードリーのみなのかな?)に説得力が出るんだなあと。とても微笑ましくて悲しいシーン。

 

シーモアからのオードリーの感情も、2020よりもより明確になっていて、だからこそオリンに対する殺意が明確になるんだなあと。実は1度最前センブロっていう恐ろしい席だったんですが、オードリーに暴力を振るった上で連れて行ってしまうオリンに対して「シーモア今『こいつ殺す!』って思っただろ!!」っていう殺意溢れる表情が見えて、あまりにも恐ろしくて震え上がったんですよね。

で、鈴木シーモアは、オードリーへの愛が重いゆえに邪悪というか、自分から進んでオードリー2に籠絡されてしまう。むしろ、オードリー2が自分を解放してくれる言葉に乗っかって、明確に堕ちることを選択する、その瞬間にオードリー2と頷きあう、鈴木さんの演技もオードリー2の操演も最高でした。

YouTubeの動画を見て、この部分の2人のシーモアとオードリー2の演技が違うことにびっくりしたんですよね。結構物語の肝になる部分だと思うんですが、そんなに解釈違うのか。操演めちゃめちゃ大変だろうに2パターンあるの素晴らしい…。

なんとなく、「鈴木拡樹が髑髏城の七人で無界屋蘭兵衛をやったらこういう解釈になるのかな?」っていうのを観られた気もしたんですよね。髑髏を通過したヲタクなので、うっかり髑髏にたとえてしまうんですが。今回、最前列か最後列かっていう極端な席だったんですが、最後列で観たときにオードリー2の歌と言葉にシーモアの身体が揺れて引っ張られていくところの演技がすごく細かくつけられていて、目を見張ったんですよね。まあ言うなればオードリー2の甘い口説き(という名の1000年前からオードリー2をやってたんじゃないかっていうデーモン閣下のお歌)に堕ちてゆくシーモア・クレルボーンのシーンだし。まあオードリー2は天魔王様より全然凶悪ですが。天魔王様はなんだかんだかわいいもんな。

 

妃海/井上オードリーも随分解釈が違うんですよね。妃海風オードリーは悲劇のヒロイン、井上小百合オードリーは喜劇のヒロイン、っていう感じがしました。妃海さんは60年代アメリカ映画のヒロインの美しさ物悲しさをたたえていて、とにかく歌うまうまで素晴らしいし、小百合ちゃんは、今ここにいそうな地に足のついた女の子で、さらに唐突にアドリブをぶっ込んでくるのが面白くて、これは飛び道具だなって心の中でゲラゲラ笑ってました。コメディエンヌとしての度胸が好き。この1年半で、小百合ちゃんがシス・カンパニーに移籍したのに、演劇でやっていく覚悟を感じて本当にびっくりしたんですが(世田パブ行きがちなストプレ好き)、鈴木さんと小百合ちゃんのボニクラとかジョーカーとハーレイ・クインとか観てみたいなー。2人のシーンで光と同じくらい闇の濃さを感じたので。

なので、三浦くんのシーモアを観たかったなあと。スケジューリングの限界だった&売止でチケット増やせないwithコロナ時代の世知辛さ。

 

石井オリンは安定の盛り上げ役でした。自由に色々仕掛けているのが伝わってきて楽しかった。QUEENライクなコーレスが出来ないのは残念でしたが、配布されたコーレス専用ペーパーを持ち上げたり、オリンの振り付けを客席で真似たりで、この時代にはこの時代なりの盛り上げ方があるなあと。なんならキンブレでもいいのかもしれない(眩しいけど。オリン専用キンブレだけど。)あと、編集者の奥方をやっているときのおみ足がとても綺麗でした。いやマジで。

 

そして岸さんからバトンタッチ、阿部裕さんムシュニクは、岸さんに引き続いて厳しいけれどどこか父性を感じさせる「普通の人」で、シーモアやオードリーへの愛情が感じられるだけに、シーモアに裏切られた感のある死の悲劇性が際立ってた気がする。

朗々とした歌声が素敵でした。

 

ロウズィーズ(非公式)の皆さん。今回はピンチヒッターのラリソンさんを含めて4人でしたが、初日に間に合わせるために、必死でリハを繰り返したんだと思うと胸が締め付けられます。本当にお疲れ様でした。変幻自在の歌とダンスがさらに極まっていて素晴らしかったなあ。2020のときには思わなかったんですが、後半の「貴方に報いを」と歌う3人は「マクベス」の予言をもたらす魔女みたいだな、と。

まりゑさんは本当なら、チケットの取れていた「大地」でも観る予定だったんですよね。パルコ劇場には行けず配信で観たんですがとても素敵で。あーーー本当に悔しいな。コロナなんて嫌い。

 

そしてそして。

このたった2週間あまり、数にして12公演、6月まで上演されていた舞台『刀剣乱舞』で幕を上げることの出来た83公演の1/6もない公演数で、鈴木拡樹の歌が、表現が、目を丸くするくらい進化と深化をしていたなと。本当に驚いた。

 

去年のブログでも書いたんですが、音楽に関してはどうしても、持って生まれた能力による差って出てくると思うんですよ。絶対音感あたりは典型ですが。まあ私なんて12年エレクトーンやってても全然上手くならなかったしな。

ただ、ミュージカルの歌唱であれば、「演技力による底上げ」が出来るんだなって。

最遊記歌劇伝Sunriseのときに随分安定していて、これまでの三蔵と全く違うなあ、面白いなと思ってたんですが。

台詞に感情を乗せるように、歌に感情を乗せるというベクトルでの進化をしているのが面白くて、本当にもっと観たかったなあ。ちゃんとミュージカルだった。けど、演技も2020よりさらに鋭くなっていて。

去年のスケジュールのように地方公演が重ねられたら、多分もっともっと進化してたんじゃないか、もっと歌が聴きたいなぁと素直に思ったんですよね。テクニカルの部分は周囲の環境と場数なんだなっていうのが目に見えた12公演だったので。

「Grow for Me」の優しい感じから(とはいえまあ相手はアレなオードリー2だけど)「Feed Me(Get It)」の振り切れた感じまで、感情を乗せることによってこんなに変わるんだなっていうのが見られて、すごく楽しいし興味深かったです。

去年のLSOHのときに、歌での表現が手練の周囲と比べると追いつかない分、演技力で殴りに行っていて、多分そこから、新しい表現力っていうのが出てきたんじゃないか、っていうのをちょっと思ったんですね。

舞台『刀剣乱舞』无伝を観たときに(これも後でエントリ増やしたい)、「いやいやいや三日月宗近演じ始めて5年目とはいえ、普通に一部ラストと二部ラストで一路真輝様と1on1でこの情感を出せるのはおかしくないか?」と思ってたんですが、リトショ2020と2021で、歌を通した表現と演技的な表現と、2つの新しい光を見つけたのかもしれないなあと、2021が終わった今思います。1年半のブランクはあるけど、確かにこの2つは地続きで、ずっと演技プランを考え続けていたんだろうなと。

改めて思ったんですが、本当に演技がうまいなあと。何をもって「演技がうまい」と定義するのかっていう問題はあるんですが、板の上で人間の感情が生々しく息づいていて、何かをきっかけに爆発する、その過程に物凄く説得力があったんですよね。ちっぽけな、でもどこか歪んだものを抱えた人間が、その歪みを表に解放してしまう快楽に抗えない、そしてその先に訪れる破滅まで、軽快なナンバーを背に突っ走るドライブ感が、痛々しいんだけど奇妙な清々しさもあって。眼鏡を小道具にして、鬱屈と解放を表現するのも良かったなあ。

まあ、最遊記歌劇伝の13年を諦めなかった人が、1年半を諦めるわけがないよな。

 

そして、今回は大千穐楽の観劇が出来て、ラストにはキャスト全員からのコメントがありました。細かい部分は覚えていないんですけど、エモーショナルな言葉で盛り上げたボーイズ、最後まで励まし合っていたロウズィーズ、感極まった清水彩花さんのコメント、舞台の上で「私はこの風景を見るために女優をやっているんだ」と力強く告げたまりゑさん、もっと続きをやりたそうな石井さん、優しい笑顔を浮かべる阿部さん、「突然の千秋楽からの自粛期間中、生きている感じがしなかった」と思いを語って泣き崩れた小百合ちゃん。そして、座長として、「言ってもいいのかわかりませんが、初演から再演まで1年半ですが、企画から考えると3年以上あったのではないかと思います」と、スタッフを慮る言葉から入り、「リベンジ公演が大千穐楽を迎えたことが、演劇界の希望の1つとなるように」と祈るような、感極まった様子の鈴木さんの言葉に、こちらの背筋も伸びる気持ちでした。

30代に入ってから、鈴木拡樹の立場はプレイングマネージャー的というか、座長として演技面や集客で求められる部分と、座組を円滑に運営するためにリーダーの一人として全体を俯瞰する部分とを、両立させようと試行錯誤中なんじゃないかなと思うことが多々あるんですが、シアタークリエにおいてもそのスタンスは変わらなかったなあと。

 

板の上で生きることを取り上げられた世界のことは、観客の側の私には想像することしか出来ないのですが、1年半経って、皆さんようやく、あのときに残してきた心残りの欠片を、手のひらに取り戻すことが出来たのかもしれないなと。

 

とはいえ、地方公演のリスケジュールは今回難しかったのだろうし、他の座組が地方公演きっかけで公演中止の憂き目に遭っていることを考えると、まだなかなか難しい部分はあると思うのですが。出来るなら、鈴木さんがラスト、「ネリネ花言葉を調べてみてね。また会う日を楽しみに。シーモア・クレルボーンでした」という粋な影アナで残したように、またシーモアと、今度は地方で会える日が来るといいなあ。

 

そして。もう一つストップしてしまった、「アルキメデスの大戦」のリスケジュールも待ってます。本当に楽しみにしていたし、この1年半で配信の過去作品を観ることが出来、「劇団チョコレートケーキすげーいい!」と思ったので(残念ながらなかなかタイミングが合わず本公演には行けていないんですが、来年の再演祭りには是非行きたい)、東宝さんどうかお願いします。

 

もう一つ。完全に閉鎖されていたブロードウェイが再開して、その演目の中にLSOHが入っているのも感慨深いなあと。日本からアメリカへのバトンも、引き継がれますように。タロンとスカヨハの映画版も待ってるよ。

 

千穐楽の緞帳が下りて、最後列は規制退場が一番最後だったのですが、クリエのスタッフの方が「今日はスキッド・ロウにお越し下さいましてありがとうございました」という挨拶で案内をしてくれました。シアタークリエの居心地の良さは、クリエを愛するスタッフさん達のたゆまぬ努力によって成立しているんだなと。この1年半で一番居心地の良い、とても静かな、コロナ対策の行き届いた劇場でした。素晴らしかったです。

 

どうかシアタークリエが、ずっと幕を上げ続けますように。

 

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舞台『刀剣乱舞』无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣- IHIステージアラウンド東京 感想

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舞台『刀剣乱舞』6年目突入おめでとうございます。

 

前にも書いたとは思うんですが、私が最初に観た刀ステは、虚伝初演のLVでした。

お試しのつもりで観に行ったら圧倒されて、そのうち再演のお知らせがあったので、チケット応募したらマーベラス先行で取れて、福岡公演を観たらもう一直線でした。

 

映像で見ることと劇場で観劇することの圧倒的な情報量差を思い知らされた作品でもあるし、まさかたった5年のうちに人生で2回目のステアラ通いをすることになるとも思わず。

そしてこのパンデミックの世の中で、中断が挟まるという、戦い続ける座組にも吹き付ける逆風が心苦しくもありますが。

 

无伝、自分の好みで言うと本当に好きです。めちゃめちゃ好き。天伝无伝合わせて、ステアラでやっているということも含め、特別な作品になりました。なってくれました。ありがとう。

 

そして、鈴木拡樹に、ステアラへおかえりなさいという言葉をかけてあげたい。

髑髏の時、2.5プロパー(と便宜上言っておく)として二番手に抜擢されて、立場的に決して楽ではなかったと思うし、心無い言葉や態度も経験してきたんじゃないかと思っていたんですが、ここで、自らが立ち上げに座長として関わった2.5作品の重要な役・三日月宗近として座長ですよ。髑髏の時の座長宮野真守と同い年ですよ。

それがコロナ禍で翻弄されているのが本当に心苦しいです。ただでさえステアラの座長は大変だと思うんですが、もっと気負わなくてもいい状態で、公演を全うして欲しかったなあ。

 

tower.jp

丁度无伝にも絡むインタビューが載っていたので、とりあえずURLを貼っておきます。

稽古中の、すとんと肩の力の抜けたいい感じのインタビューで、勿論いつストップしてもおかしくないご時世ではありますが、それでも前向きな姿からの、中断は本当にしんどかっただろうなあ。

 

以下、ネタバレしかないので一旦あけますね。敬称略したり略さなかったり。

 

 

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舞台『刀剣乱舞』 天伝 蒼空の兵-大坂冬の陣- IHIステージアラウンド東京 感想

コロナコロナで七転八倒した2020年、胸くそ悪すぎて振り返りなんぞしたくねぇわ! と思ってたら2021年も3月に突入しましたが、皆様いかがお過ごしですか?

 

ということで、現在IHIステージアラウンド東京(以下ステアラと表記)にて絶賛上演中の「刀ステ」こと舞台『刀剣乱舞』の感想です。

考察は1ミリもやってません。本当に感想のみ。思うままにつらつらネタバレ感想を書いているので、未見の方はお気をつけください。あと、敬称略したり略さなかったり。

 

なお、このブログは2017年ステアラ髑髏城でステアラヒャッハーがキマっている、脳みそ溶けたバター状態が続く、髑髏城の亡霊がお送りしております。ヒャッハー。

 

 

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