ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

劇団少年社中『テンペスト』感想

退職と転職と引っ越し前のごったごたで忙しいを通り越して解脱モードになっておりますこんにちは。退職エントリは書かないけど転職試験受かりましたエントリは書いたら需要がありそうだなと思いつつ(多分まあまあ目指してる人が多いだろうレアケースなので)、守秘義務がありそうなので書けません。どこかの劇場で私に会ったら捕まえて聞いて下さい笑。

 

ということで、2024年最初の観劇は劇団四季の『WICKED』と劇団少年社中の『テンペスト』でした。去年の秋口にWICKEDのチケットがなんとか平日の1枚だけ取れていて、有休消化の関係もあって3日間東京に行くので、なにか一緒に行けるといいなと思って、最速の社中先行で1枚取ったのがテンペストだったわけですが、キャスト発表されて慌ててチケット増やしたり(土日マチネと大阪もキャス先で取りました)。

奇しくも、どちらも劇団の公演でした。商業演劇をあちこちフラフラしがちな私にしては珍しいんですけども。

『WICKED』はこんなんエルファバ強火担になるしかねーじゃろっていう内容で、とはいえ無知であることがきっかけで沢山のものを失って、それでも大切な友人を得たグリンダが気の毒でもあって、公開予定の映画がとにかく楽しみになりました。アリアナ・グランデのグリンダとシンシア・エリヴォのエルファバは観たすぎるじゃろ。そして四季劇場では丁度WICKEDとアナ雪の、シスターフッドダブルヒロインものが2つかかっていたっていうのも面白かったな。令和6年って感じだった(なんのこっちゃ)。

なおアナ雪も2回ほど観に行ってまして、機会があったら3回目も行きたいところ。Let It Goで早替えするエルサが好きすぎるんじゃ…。

 

さて、話の枕はここまでで。

以前、こんなエントリを書きました。もう6年も前なのかびっくりだよ。

以下敬称略!

 

yuuki-sara.hatenablog.com

 

私が観劇をするようになって、ああ、まだ解散していないときに観てみたかったなと思った劇団が2つあって、1つは三谷幸喜東京サンシャインボーイズ、もう1つは惑星ピスタチオなんですけども。

 

劇団少年社中はコロナ禍を超えて25周年記念公演を打ってくれて、そして、上記ブログで長々長々感想を書いたものの、当時は映像でしか観られなかった「鈴木拡樹が出ている社中公演」を劇場で観るという希望がついに叶いました。

 

www.shachu.com

 

鈴木拡樹✕少年社中✕シェイクスピアとしては『ロミオとジュリエット』以来の、少年社中のシェイクスピアものとしては多分『リチャード3世』以来の?(ピカレスクセブンではマクベス出てくるけども)作品になるんでしょうか。

 

初見で観たときになんだかわからないけど号泣して観終わったあとぼーっとしてて、何か感想がまとまればと思ったんだけど言葉としては出て来なくて。ついでに電車降りる場所間違えたりもしましたが。大楽まで観た今もなかなか言葉にならなくて、ただひたすら「演劇を浴びた」っていう感触が体に残ってるんですが、こういうときこそ無理やり言語化しておきたいので。

 

 

以下、ネタバレ前提で話をするのでごめんな! 円盤出るから買ってね!

宣伝か!!(宣伝担当ではありません)

限定版はコロナ禍中に配信された少年社中ライブストリーム『劇場に眠る少年の夢』も入ってるよ!

 

shop.toei-video.co.jp

 

 

 

 

 

 

【幸せだった。だから、俺も、みんなを幸せにしたいって思ったんだ。

なんの因果か。偶然か。俺は、あのとき見た劇団の舞台に立ってたんだな。】

(少年社中『テンペスト』台本より引用)

 

あらすじは公式サイト参照。15年前に劇団を追い出されたパワハラ演出家が、天才役者をコマにして、劇団に、演劇に復讐を試みる話…なのかな一応。

あと、囲み取材の様子はこちら。

 

youtu.be

 

大学時代にシェイクスピアの有名どころのはちょいちょい読んではいたんですが、『テンペスト』は未読で、観劇前に予習として読んでいきました。

 

戯曲の構造としてはかなりメタで、テンペストを上演している劇団虎煌遊戯の舞台上での経過、そのバックステージ、さらに15年前の虎煌遊戯の稽古場、劇団を離れた演出家ギンが天才役者ランにあって稽古をつけるようになるまで、が入れ子構造になっていて。とはいえ構成としてはかなりわかりやすく整理されていて、毛利脚本の丁寧さが凄く良い形で出ていたんじゃないかなと。

 

劇団虎煌遊戯が舞台上で演じていたのはテンペストでしたが、実際は『夏の夜の夢』だったり『マクベス』だったり、複数の作品がオマージュとして組み込まれてたんだろうなと。学がないので発見出来なかった…気づいた方教えて下さい。

 

で、毛利さんがあちこちのインタビューで今回言及してますが、毛利さんのルーツでもある早稲田劇研から生まれた劇団東京オレンジと、そこから出てきた天才役者・堺雅人へのオマージュでもあるのかもしれないな、と思いながら観てました。

 

natalie.mu

 

劇団出身の天才役者は天才であるが故に、その劇団を離れなきゃならないときが来るのかもしれないなと思うことが度々あって、個人的にそのパターンで真っ先に思いつく双璧は上川隆也堺雅人なんですが、『テンペスト』内にも、15年前に劇団に所属していた天才役者ゲキの存在があり。

 

ゲキは15年前に非業の死を遂げて、板の上に立つ幽霊として残ってしまっているけれど、そのゲキの心配事が昇華されて、笑顔で舞台を降りる話でもあり。それと入れ替わりで、新しい天才役者ランが、板の上でデビューを飾る話でもあり。劇団内で地道に続けてブレイクした苦労人カグラが、演劇の楽しさを取り戻す話でもあり、そのライバルシュンが、マサが、同期カグラとの関係を見つめ直す話でもあり、新人ヒナタがトラブルの嵐に巻き込まれる話でもあり……と余すところなく板の上の全員が主役で、自分の人生を生きていて、一人復讐の炎の中で荒れ狂っていたギンも、最後には自分の立ち位置を見直すことが出来るという赦しの話でもあり。

みんなの名前を出すと長くなるので割愛しますが、一人も捨て役がいなくて、何より劇団の看板である、おそらくとても愛されているアイコン的存在であろう井俣太良さんに、愛せるところの1ミリもない、難役を25周年記念に振ってくる毛利さんの、劇団少年社中への愛を見た気がしました。

 

個人的に、ギンを追い出したあとに主宰として15年劇団を支えてきたユッコさんの繊細さと、ギンに対して「許すわけないだろ一生悔やんでろ!」と叩きつけられる強さがとても好きで。

テンペスト』内における社中メンバーは、おそらく過去の色々を思い出して心の中で血を流しながら演じてたんじゃないかな、とも思ったので、皆様ゆっくりしてほしいです。いや、個人的に、各劇団の座付き作家が一番面白く個性的に書けるのは、おそらく劇団で一番経験しているであろう内ゲバものだと信じてるんですが(あさま山荘ものとかもその類型だと思ってるので)、殆ど自傷行為みたいなもんだとも思うので、本当にお疲れ様でしたとしか言えない…。

 

物語に関しては、作中では大団円とうたいつつ、物語が終わっても大団円にはならなさそうなオチなのを役者の力技で大団円のフリをする話だな! と後から思い返して面白くなっちゃったんですけども。こういうところもシェイクスピアっぽいというか。

 

パワハラが原因で劇団を追われたギンは、結局ハラスメントをやめられたかというと、新たに弟子入りしたランはリアルタイムで殴られていて、ギンは結局ハラスメントという名の暴力に対する反省と悔恨がないまま15年生きてきちゃってるんだよね。

ラストにギンは赦しを乞うけれども、まずハラスメント講習とリスペクトトレーニングと加害者カウンセリングを半年くらい受けないとアウト、くらいユッコさんに言ってほしいなあと。なんならランが被害届出して刑事処分受けるくらいじゃないと駄目かもなあと思いつつ、丁度最近アニメ「ハズビンホテルへようこそ」を見たところで、こちらは地獄へ堕ちた者たちと赦しのエピソードもある話なので、なんともタイムリーだなあと。

本人が変わりたいと切実に願って、変わることを心から信じるし喜ぶ周囲の支援があれば、人間は変わることが出来るっていう善性を信じる人たちの話なんだろうな、それくらい、社中メンバーは善性を信じている人たちが集まっているんだろうな、とある意味ホッとしたりもしたので。現実でも逮捕されて釈放された後に身元引受人がいるって大事なんだよな、と思ったりもしつつ。

 

個人的にこのキャストめちゃいいなと思ったのは、矢崎広と本田礼生と萩谷慧悟の3名。

ぴろし、苦労人が似合いすぎるんよ。テンション低めのカグラが声の大きさ=想いの強さの社中作品の逆を行ってるの上手いなーと。正統派シェイクスピアでもお目にかかりたい。

れおくん、エーステの映像を見たときに「めっちゃ上手いコメディリリーフやんけ」と思ってたら、本当にめっちゃ上手いコメディリリーフで腰抜かすかと。間の取り方とか見せ方とか上手い。コメディいっぱい観たい。萩谷くんとのダンスのシンクロとアクロ良かったなー。

そして萩谷くんはじめましてだったんですが、長年アイドルとして頑張ってきている子の0番力にニコニコしちゃいました。特に大阪公演、物凄く演技が磨かれてキラキラしていて、これは推しているファン達みんな幸せだったろうなーと。またどこかでお会いしたいなあ。

 

そして鈴木拡樹なんですが。とにかく、こんなに幸せなものを観ていいのかな、って終始思ってました。今も夢みたいだなあ。もっとチケット取れば良かったって後悔してるくらい。三人どころじゃない吉三を劇場で観られなかった後悔は今もあるんですが、テンペストを劇場で観られたっていうのは墓まで持っていける人生の思い出になるなーと。

色々な魅力がぎゅうぎゅうに詰まってて、かつ想像の遥か上をいくような上手さで、気がついたら目線が奪われてしまっていて、何より楽しそうに演じていて。

何から何まで良…だったんですが、特に好きなのは四国の海岸でギンが、ランの演じる「カゴツルベ(歌舞伎の籠釣瓶花街酔醒ベースの社中作品)」を目撃するシーンで。

それまで演じていたエアリアルから、すっと膝を撫でで座る仕草だけで、着物の裾をさばく様子だとわかる、しなをつくって八ツ橋花魁が斬られるまでを演じる、そこからくるりと回転しながら立ち上がって、八ツ橋花魁を斬った次郎左衛門を、斬った後の刀を握るマイムとともに演じる…、文字にすると味気なくなってしまう、ほんの1~2分のシークエンスに、私が演劇と演者に求める全てのものが詰まっていて、最初に観たときは震えました。しかも観るたびにシーンが深まっていくし。

 

ブログの冒頭で惑星ピスタチオの名前を出したんですが、座付き作家だった西田シャトナー氏は『舞台弱虫ペダル』に、惑星ピスタチオのパワーマイムの表現を継承させた、鈴木拡樹はその初演メンバーの1人で、今はもうない劇団の手法を引き継いでいるんですよね。ランはどこかペダステの荒北を彷彿とさせるようなガラッパチなキャラクターで(ランの方が相当フワフワしてるけど)、こういうのも(いんぷろ以外では)久々に観たなあと嬉しくなったし。

惑星ピスタチオは原初の演劇の表現手法に近いというか、役者の体だけでどこまで表現出来るかというのを突き詰めていたのかなと個人的には思っていて、それは鈴木拡樹が2.5次元舞台を経てきているからこそ継承出来たものなんですよね(そして惑星ピスタチオには佐々木蔵之介という看板役者がいますが、話がとっ散らかるのでこれ以上は言及しない)。

で、私が個人的にストレートプレイに求めているのは、役者の身体性を発揮した表現なので、カゴツルベのシークエンスを観たときに、とにかく嬉しかったんですよね。

 

ランのシーン全部好きなんですけど、強いてもう1つ挙げると、作中に出てくる『夏の夜の夢』のパックの台詞が2箇所にあるんだけど、最初にその台詞をランが言ったときは「ただ覚えていたものをそらんじた」だけだったのが、クライマックスで出てくるときには、観客に赦しと拍手を乞う、切実な内的要因から生じた「魂からの台詞」に変化していたところ。ランにとって、混乱のテンペストは自身の初舞台でもあった訳で、その中でラン自身の成長を演じるのにとてもスマートで、そして印象的な台詞だったなと。

 

観劇後に友人と色々話してたんですけど、「声に感情を乗せるのが凄くうまくなってる」っていう結論になって、それはこの数年、ミュージカル千本ノックをやってひたすら練習してきたことだろうし、髑髏城のときに演出のいのうえひでのり氏から言われたことで、確か長台詞のときに後半息が抜けてしまうみたいなのがあったと思うんですが、そこを直しにかかってるんだなあと。あと、個人的にランのエアリアルを観て「マスクのジム・キャリー(とその吹替の山寺宏一)だ」って思ったんですが、ランのエアリアルとゲキが入っているランとゲキのエアリアルとが全部違ってて全部わかるしランのエアリアルが劇中劇の進行とともに変化していったのも凄かったな…ランが公演の中でエアリアルを掴んでいく過程がわかるというか。全てがシームレスなのに輪郭がくっきりしていたの凄かった。

あと、「俺の目ェ見ろ!」のシーンを最初に観たときに下手側に座っていた私は無事死亡しました。あのシーンの気迫は本当に凄かったな…。凄いしか言ってないけど本当に凄いしか語彙がない。1公演ごとに倒れても構わないくらいの気持ちでやってたんじゃないかと思った。

 

作中でランは「空っぽ」という呪いをギンにかけられるけれど、クライマックスでギンに対して「今はたっぷり入ってるんだよ! あんたが教えてくれたものが!」で呪いを跳ね返すランの強さがとても眩しかったな。それは演劇と鈴木拡樹の関係そのものでもあるかもしれないし、全く違うかもしれないけども。

 

そして、毛利さんが「社中に出演する鈴木拡樹に求めるもの」も変わってきているんじゃないかなと感じた演目でもあり。

これまでは「俺の観たい鈴木拡樹」だったと思うし、今回もそれを感じるんですが、それ以上に、「役者として大成するために必要なものを全部やらせるし、自分の作品で鈴木拡樹が物凄く上手いし魅力的な役をやってるって色々な人にプレゼンしたい」みたいな気持ちもあるのかなと。東京オレンジと堺雅人、とは関係性が違うけれど、鈴木拡樹を今の鈴木拡樹たらしめたのは、地元大阪で美容師になって、親の店を継ぐつもりでいた人が、毛利亘宏脚本のたった1本の芝居を観て「役者をやりたい」と決めたことだと思っているし、毛利さんは鈴木拡樹にとっての少年社中が、堺雅人にとっての東京オレンジのような存在であって欲しいと願っているのかな、と何となく思ったので。

 

最遊記歌劇伝が外伝で素晴らしく美しい形で幕を閉じたのを見届けて、次に何が来るんだろうと楽しみにしていたんですが、なんならこれが今年ラストの観劇でも全然構わないくらい幸せな観劇でした(いや2月はオデッサ観るし3月はPPVV3観るけど)。キャスト全員で演劇を楽しんで、苦しんでいて、それを楽しむ観客の私の業を実感するひとときでもあって、そういうのも含めて本当に良かったな。

30周年記念公演『夏の夜の夢』も楽しみにしてます。ところで拡樹くんシェイクスピア劇何か出ない? タイタス・アンドロニカスとかでもいいよ(エグい)。

 

そして、2024年は個人的に、三谷幸喜東京サンシャインボーイズがシアタートップスで「リア玉」という復活公演をやる年として認識してます。まあ一度『Returns』で復活公演をやってるけど、途切れた何かがまた繋がるかもしれないときもあるし、去ってしまった堀池直毅さんのことを思い出しながら、ひとまずこのエントリは締めます。

 

円盤来たらまた何かまとめるかも。そのときにはもう引っ越して新しい仕事をしてるんだなあ。