ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

舞台PSYCHO-PASS Vertue and Vice 2019/4/19ソワレ、2019/4/20マチネ感想(途中からネタバレ有り)

さて、平成最後の観劇でした。実はSPECTER再演も観に行っているんですが、そちらの感想は改めて連休中にでも。

 

ということで。ネタバレに触れずに感想を言うと、

「ハチャメチャにPSYCHO-PASSで、ハチャメチャに面白かった!!!!」という語彙力皆無な状態になってしまうんですが。オープニングのキャスパレ後に暗転した瞬間、「これ絶対に面白いやつだ!」っていう確信があったんだけど、予想以上だった。

あと羅列すると、

●セットとプロジェクションマッピングにめちゃめちゃ金かかってるのでは?

●全く心配していなかったけど役者全員演技が素晴らしい

●アクションの足技最高

●脚本の出来が物凄く良い

●これは後方から全景で観たほうが楽しいかもしれない

●全員フルオーダーのスーツに感謝しかない

●とにかく安っぽさが全くない

●これだけ全部盛りで面白いってチケット代実質無料なのでは???

 

さて、以下ネタバレ感想に進みます。

その前に、PSYCHO-PASSに関しては、一期は大体リアタイで完走しているものの、「うーん、ノットフォーミーかな」ということでそれ以上深入りしていませんでした。あともう一つ、「これ、実写で見たかったなぁ」というのを当時から思ってました。そして敬称略。

 

ということで、アニメのファンの方には不快な部分もある文章かと思います。あらかじめご了承下さい。

以下ネタバレのため改行。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大丈夫かな?

以下項目を分けます。

 

●ストーリーについて

3係全滅エンドかよサイコーだな!!!

…というのが、まずテンション激上がりポイントなんですが。

アニメかコミカライズのどこかで「壊滅状態になった」っていうのを見かけた覚えがあるんですが、その関連エピソードに当たるのかな?

実は今回舞台を観るにあたって、一期途中までアニメを見返して、途中から時間がなくなったのでコミカライズで復習していたんですが。

「ああ、私がPSYCHO-PASSで観たかったのは、シビュラシステムに対する敗者の物語だったんだな」と舞台のエンディングで痛感したんですよ。なので、観終わったあとのカタルシスが半端なかった。観たいものを全部観られたので。

 「潜在犯とラベリングされただけの普通の人」二人がシビュラ・システムに不条理に人生を転がされ弄ばれて、それを知ったときの感情と、その先に何を選択するか、道は分かたれるのか、というのを、九泉と嘉納、そして3係のメンバーで体現してくれたんだなというのがもう、たまらなく良くて。

免罪体質であるけれども対照的な選択をする朱と槙島の考え方は、あの世界では潜在犯とラベリングされるであろう私からは遠すぎて、ただただ強い人達のタフな生き方の物語として、距離のあるままアニメを通り過ぎてしまった人間なんですが。

晴人と火炉の末路を通して、朱の選択にようやく納得がいったんですよね。頭悪くてすまんかった。

 あと、最初のワチャワチャのおかげで執行官全員のキャラが立っていて、さらに現在のエピソードから過去の関係性も滲ませるいい演技があって(特に大城)、しかも死にゆくことに対してきちんと見せ場が提示されるので、たった2時間なのに愛着が湧いて喪失感も凄まじいという。なんだこの密度の高さ。

 

あと、ようやく警察と法務省を潰したっていう話が出たよ!

厚生省が犯罪関係を仕切るまでに絶対何かあるだろと思っていたところでの「ヒューマニスト」の出自だったので、「あっ一応存在してたのか!」と目からウロコでした。

私はどちらかと言うと司法権の犬なので、本編でずっと言及しないことへの気持ち悪さがあったんですが、この辺もしかしたら三期でちょっと触れたりするんだろうか。

それと、犯罪係数の数値はシビュラ・システムの意志で簡単に操作出来るっていう当たり前のことを当たり前に出してきているところも納得で。システムが気分でランダムに人を選んでるっていう世界なのかもしれないし、それならシビュラ・システム自体の存在も逆に合理的だと思うので。独裁国家的なアレ。

 

ラスト、九泉と嘉納がお互いにシビュラ・システムから何をされていたかを知って、対等になった瞬間、最高にバディものだったと思うし、手を取り合うことなく道を分かち、互いにドミネーターを突きつけあい、そこでドミネーターCV日高のり子から無感情に告げられるシビュラの意志からの暗転は、とてつもない浪漫だなと思ったのでした。

 

そして、2時間休憩なしノンストップなストーリー展開は、映画の尺のようで締まっていて良いですね…。

キャラ紹介の前半から、井口の死をきっかけに怒涛の転がり方をしていく展開はプロの仕事だなと。

私多分、深見脚本とそんなに相性良くないと思ってるんですが、PPVVに関してはあまりの面白さに腰を抜かすかと。凄いわ。

 

●セットとプロジェクションマッピングについて

あの…こんなにお金かけて本当に大丈夫? 採算取れてる?

三段のセット+階段で縦に大きく取っていて、さらに可動式半透明のプロジェクションマッピング投影用スクリーンが上下するんだけど、スクリーン移動の合間に暗転なしシームレスにあちこちで役者が物語を進行させているので、待っている感覚があまりなく。

素材もアニメから引っ張ってきているんだと思うんだけど、プロダクションIG印なので違和感もそんなになく。

ライブ会場が事件に関わってくるので、会場を全体的に活用したメタフィクショナルな観客巻き込まれ型展開があるのも良かった。

演出については、私はあまりに本広演出どっぷりな時期があったから、客観的な感想が書けないので識者に任せるけども。

ステアラを思い出したりしました。回らないけど。

 

●演技について

鈴木拡樹の慟哭と和田琢磨の闇落ちを同時に観られるご褒美みたいな脚本を、観客に感情を爆発させる形で見せていく演技の妙よ…!!!

これに関してはそもそも全く心配していなくて、だからこそ一公演は観てみようと思ってチケットを取ったんですが(実は当初、舞台を観に行くかどうかも悩んでいた)、鈴木拡樹を信じて良かった…結果的にチケット増えたけどまあキニシナイ。以下感想羅列。

 

○鈴木拡樹(九泉晴人)

始まってしばらく、九泉がどこかアンドロイド的な、「過去の見えない」存在に思えて、何故だろうと引っかかりながら観ていたんですが、後半の展開へのフックだったという。謎の身体能力の高さ(監視官なのにどうしてこんなに動けるんだ的な)も伏線になる、アクションも役者としての本領を発揮していて、それが真実を知って惑乱し、こちらの胸も張り裂けそうになるような慟哭をして初めて、本当の過去を滲ませる演技を始めるのめちゃくちゃズルいですね! 知ってた!!!

最終的に火炉と袂を分かつ瞬間の、刑事としての悟性を獲得した輝きが眩しかった。それはシビュラに縋るだけなのかもしれないけどなお。

あと、足癖が悪いのと、殴られてふっ飛ばされる演技の上手さは要チェックポイントかと。やられ役ほど上手くないとリアリティ出ないですもんねえ。

和田琢磨(嘉納火炉)

や、闇落ちサイコ〜〜〜!!!

悪役やりたいと言ってた、というのをツイートで見て、「私も見たいわそんなん!」と思っていたら早々に叶ったという。分析官を撃った瞬間から声のトーンが低くなるのが大変良かった。大城とのシーンで過去を滲ませる演技をするので、余計九泉の過去のなさへの違和感が増すんですよね。間の取り方も絶妙で、上手い役者だなあと改めて。

九泉と嘉納はまごうことなき闇のバディだった。相容れない結末を迎えるところも含めて完璧に私の好み…。

池田純矢(執行官大城)、小澤雄太(相田)、多和田任益(蘭具)、中村靖日(井口)、山崎銀之丞(分析官目白)

映像で拝見していたのが中村さんと山崎さんと映画ハイ・ローで小澤さん、あとは多分はじめましてだったのですが。 

池田さんの大城の熱量が素晴らしかった。まだ26歳というのにもびっくりしたんですが。しかも別に脚本演出もやってるとか、さては天才だな?! アクションシーンもアクロバティックで派手で、華のある役者さんだなあと。

小澤さんは飄々としたどちらかというと陽性の執行官を、多和田さんはヲタ特有の早口が持ち味の元漫画家執行官を活き活きと演じていて、そしてアクションでよく動く動く!

多和田さんの足の長さを十分に活かした足技が凄かった。お二人とも演技も安定していて、冒頭数分でキャラの個性を打ち出せるの大変良かったなぁ。小澤さんと多和田さんのラストシーンはグッと来てしまった…。

中村さんは朝ドラ「ごちそうさん」の印象が大変強いんですが、日替わりらしい中国語の部屋紹介コーナーの面白グッダグダさからの爆弾処理シーンのギャップが素敵でした。なので早い退場がとても惜しい…。

山崎さんは言うまでもなくベテランですが、ラストシーンを締める重い演技が印象的でした。オープンリーゲイの分析官なのはアニメでもあった設定だけど、当たり前のように登場人物に含まれて、それがストーリーの本筋に影響しない時代になりつつあるんだなと平成の終わりを感じる部分でもあり。

 

そして、全員スーツでのアクションなんですが、足が! 長い!!

マナーメイクスマン!!(違います)

このためのフルオーダースーツ衣装とか、お金がry

いや、採算取ること考えていいんだよ…次に続くような作り方しておくれ…。

 

高橋光臣ヒューマニスト・三島)、町井翔真(後藤田)

コパスだと犯人側はどうしても雑に死にがちだと思うんだけど、二人とも爪痕を残す感じのラストなのが良かった。そしてどっしりと怖いんだけど、彼らには彼らなりの思惑があると伝わる熱さと演技がとても印象深い。

 

アクションに目が行きがちですが、実際のところ推理もの&会話劇でもあるので、台詞の量も膨大なら込める感情や物語の伏線も膨大で、役者全員めちゃくちゃ大変だと思うんですよ。それが初日近くで物凄く完成度が高いので、これは大楽には大変なものに仕上がっているんじゃなかろうか。

でも、何度も演じてブラッシュアップしていくのが演劇だと思うし、膨大な情報量をまとった役者がPSYCHO-PASSの世界を表現することで見えてくるものがある、と実感出来たのが私の中で大変大きくて。

そもそも、シェイクスピアにせよ寺山修司にせよ、戯曲から引く場合には身体表現も欠かせない要素だと思うんですが、アニメだとそれを絵が担わなくてはならなくて、その際に落ちてしまう情報があるんじゃないかな、だから役者が演じるPSYCHO-PASSの世界はどんなものだろう、というのがずっとあったんですね。

声優さんの演技力が素晴らしいのは疑いないですが、どうしてもそれだけでは見えて来ない、特に私はアニメの絵から情報を拾うのが苦手なので、だからこそ実写だとどうなるんだ、というのがあり。

それを全キャストが、納得の行く素晴らしい演技と身体表現で見せてくれたので、そこも自分の中ですとんと落ちたポイントでした。演じる度に変化してゆくという意味でも。

PSYCHO-PASSの世界観がアニメで重層的に構築されている今だからこそ、出来る表現なのだな、という部分では物凄く2.5次元舞台だと思います。その上で、脚本演出演技のバランスが高レベルで噛み合っていて、演劇という表現手法で描き出される、シビュラ・システムに支配された理不尽な世界に人が抱く感情を、言語表現とともにノンバーバルな表現で繊細に豪胆に紡いだ役者達にスタンディングオベーションを。

 

とても好きな舞台作品です。出会えて良かった。 

何か書き落とした部分があれば追記すると思います。

 

ということで、令和最初の観劇も舞台PSYCHO-PASSです。新元号でもよろしくお願いします! 多分このブログは平成のうちにまた更新するけど!

舞台どろろ 2019年3月20日福岡ももちパレス、3月23日三重文化会館大ホール

あけましておめでとうございます。なんと今年初めての更新なんですが、1月に映画刀剣乱舞が公開されてから延々映画館に通ってました&副鼻腔炎でぶっ倒れてたら回復するのに異常に時間がかかりました……なんてこった。

 

ということで、今年もマイペースに更新する&忘れた頃に感想をアップするので、よろしくお願いします。

 

www.dororo-stage.com

 

そんなこんなで、現在アニメも絶賛放送中の、舞台どろろを観てきました。

 

以下ネタバレあるよ! お気をつけて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内容的にはアニメ準拠、台詞も醍醐関係は同じものも多かったのですが、展開が違うのと、今回は百鬼丸のアニメ版CVも舞台版百鬼丸も鈴木拡樹さんということで、何が楽しいって演技面での比較が出来るのが。

 

同じ役者が表現する同じキャラクターなんだけど、喩えれば、一枚の画像をモニタ表示用にRGB3色分解して表示するのと、印刷用にCMYK4色分解した場合に、色味や見え方が変わってくるときのような変化というか。

勿論補正が入るので、同じ百鬼丸ではあるんだけど、舞台版の百鬼丸と、アニメ版の百鬼丸は、展開の順番やキーになる台詞が変わる、何より実際に観客が見るのがアニメのキャラクターか、鈴木さん本人の演じる百鬼丸か、という部分で、同じなのに異なる出力がされていたように思いました。

ベースはアニメどろろとは言え、3時間でまとめる舞台と2クール続くアニメは、まとめ方も違えば百鬼丸を取り巻く共演者も変わるし、アニメ声優としての発声(少年・百鬼丸としてキャラの声を作って発している)と舞台役者としての発声(一番後ろの座席に届けられるように声を張る)の違いの比較もリアルタイムで面白いなと。

 

舞台は一気にアニメどろろのストーリーを駆け抜けた感じではあるんですが、特に醍醐家族のやりとりでの間のとり方がやはり舞台的で、むしろアニメの方が一気に駆け抜ける感じになるんだなと、今週放送された12話を見てから思ったり。

 

もっとも、鈴木さんは大千秋楽の挨拶で、「舞台とアニメで全く違う百鬼丸を演じた」という旨のことを話していたのと、舞台はどろろの背中の謎については一切触れていなかったので、これからの展開は大きく変わってくるのかな、と思いつつ。

 

舞台どろろについては、あまりにもインパクト強かったのが鈴木さんの百鬼丸としての演技で。

目が見えない、耳が聞こえない、話すこともできない。義手義足で歩き、動かない義眼をはめた眼球は何も写していない。まばたきすらしない。

……というのを身体表現として板の上で演じる姿は、周囲の役者との差も相まって、まさに異形の存在でした。

 いうなれば、これは鈴木拡樹にとっての「奇跡の人」で、ヘレン・ケラーなのかもしれないなと。

 声を取り戻してからの発語も、顔の筋肉が発語用に鍛えられていないが故のぎこちなさを感じられるもので、正直めちゃくちゃ圧倒されました。なんだこれ。私はいったい何を見たんだ。

そして、なんだか存在感がすごい。気配を消しているときはわからないんだけど、ピンスポ浴びる前からそちらに目が向いてしまう。百鬼丸は決して派手な外見ではないのに、暴力的なまでの華は一体どこから来るんだろう。

そしてマチネよりさらに早くなるソワレの殺陣。体力おばけかな???

百鬼丸は得物が腕の仕込み刀なので、泥臭いアクション系の殺陣がついてましたが、基礎体力と運動神経の良さがよくわかりました。ジャンプの滞空時間が長い。

 

ゲネプロの動画が演劇系ニュースサイトからアップされていたので、実際に見た方がわかりやすいとは思うのですが。

 

search.yahoo.co.jp

 

私事ですが家族に中途の盲ろう者がいて、百鬼丸とは反対に視覚と聴覚を失っていったんですが、赤子の百鬼丸を助け、義手義足を与えて育てた寿海が、地面に書いた「百鬼丸」という名前を、手のひらで辿って自分の名前を覚えるシーンで号泣しましたよ……。家族とまさにそういうコミュニケーション(基本は手のひらに指文字ですが)しか取れないので、きっと寿海は根気強く、百鬼丸に単語を教えていったんだろうと思うと。サリバン先生とヘレン・ケラーのシーンを思わせるような美しさでした。

リアルに身内にいるだけに、動きの生々しさが余計自分に刺さって、目を背けたくなるくらいでした。一体どれだけ調べたんだろうなあ。ここまで表現出来るのか、と打ちのめされた気持ちです。本当にすごかった。

寿海とのシーンはどれも互いへの想いに溢れていて切なく美しくて、場面のたびに泣いていたという……。

 

以下、印象的だった役者さん。

どろろ役の北原里英さん。ここのところ、田村芽実生駒里奈とアイドルから役者への転身を果たしつつある女優さんを観る機会が多いんだけど、とても陽性ないい役者さんだなあと。辛い想いを沢山したけれど、でもしなやかにしたたかに生きる、明るくて一途で強くて元気などろろがとても眩しくて、重い物語の癒やしでした。やっぱり目を引くからこそのアイドルなんだなあとしみじみ。アザだらけの手足が、努力の証なんだろうなとしみじみしました。

これからも色々な役でお目にかかりたい女優さんです。

 

多宝丸役の有澤樟太郎くん。刀ミュ幕末で初めてお目にかかって、それから少し間が空いて、「らぶフェス」をライビュで、「七つの大罪Stage」を配信で、「トゥーランドット」を劇場で観ました。役者としてめちゃくちゃ伸びていてとても将来が楽しみなんだけど、トゥーランドットのときにどこか遠慮しているような雰囲気を感じて、その屈託は何なんだろう、と不思議だったんですね。

でも舞台どろろでは、生真面目でそれ故に国と兄の間で悩み続ける多宝丸を、とてもいい立体感をもって演じていて。

後半の見せ場の一つ、百鬼丸と多宝丸の対決シーンの殺陣もすごく良くて、福岡と三重の短い間でもさらに進化していたので、今後の成長がとっても気になります。いい役者さんになってほしい。

大千秋楽の挨拶で、嬉しそうな、そしてとても寂しそうな、感無量といった表情をしていたのが印象的でした。クールなイメージがあったんだけど、きっといい座組だったんだろうなと。

 

賽の目の三郎太役の健人くん。刀ステ以降好きな若手の一人なんですが、大千秋楽ソワレ、鵺に取り込まれた三郎太が吠えた瞬間、座組全員に大楽ブーストがかかったのが見えた気がしました。すごかった。一声で空気を変えられる役者なんだなと改めて。

しかし闇落ちの似合う役者さんだなあ。本人はカラッとした感じの雰囲気なのに、闇をまとった瞬間に見えてくる艶はなんなんだろうなと。

からくりサーカスでもアシハナさんやってますが、俄然そっちも観てみたくなった。

 

そして醍醐夫婦、唐橋充さんと大湖せしるさん。飄々とした琵琶法師の赤塚さんと、百鬼丸を愛情をもって支えた寿海の児島さんもですが、皆さん技術に裏打ちされた、どっしりとした演技で、舞台どろろに重厚感を与えていたんじゃないかなと。唐橋さんの醍醐には最後めちゃくちゃ泣かされた。そしてせしるさんの新嘗祭の踊りが夢のように美しかったなあ……。

百鬼丸が超えるべき父・醍醐景光と、愛を与えてくれる父・寿海の対比も鮮やかで良かったです。手塚作品っぽい実父に対するエディプス・コンプレックスと育ての父の愛だなと思わされた。鉄腕アトムの天馬博士とお茶の水博士もこの類型だよなあと。

 

助六の田村くん、田之介の影山くんも、出番は決して長くないながらも、印象的な演技とアクション・殺陣で作品を彩っていて。総じて役者の皆さんのバランスがとても良かった気がする。特に影山くんは殺陣が初めてという話だったんだけど、すごく良かったです。今後も殺陣芝居が観てみたい。

 

舞台作品として、役者の熱量が感じられて、何度も観られた上に東京楽を中継してくれたのは本当にありがたいことでした。見返したいときに録画をチェック出来るの最高すぎる。

 

ただ、ちょっと気になったんですが。

私は個人的に西田演出って結構好きだったりするんですけど、どろろに関しては、つけている演出が箱の大きさに見合っていなかったんじゃないかなあと思ったり。

もっと小さい箱で、もっと少ない公演数でやる演出だったんじゃないかな、というのは考えてしまう。

というのも、SSSでも舞台煉獄に笑うでも思ったんですが、アクション専業でなくダンサーも含むアンサンブルキャストが殺陣の相手役もしつつ場面転換用のセットを操作したり、場面転換のときのマジックのような仕掛けや段差の大きいセットを作ることが、20公演以上やる場合に安全性を確保できないんじゃないかと思ったんですね。役者は消耗していきますし、疲労に伴って訓練されていないキャストの危険が上がってくるし。セットも激しい使い方をすれば傷むし。

激しい殺陣を大量に含む演目なだけに、一歩間違えてセットが倒れたりすれば命にも関わる事態になりかねないわけですし。

転落事故で死者が出て、中止になった舞台は残念ですが沢山あります。労働安全衛生規則は守ろうぜ……。

 

ただ、役者の技量と熱量に、全力で心打たれた舞台でした。あの熱を劇場で体験できて、本当に幸せ。泣きまくって翌日目がぱんぱんに腫れたの久々だったよ……。

そして、板の上にしか存在しない百鬼丸たちにもう会えないのに、アニメを見れば同じ声の百鬼丸が喋っているのは、なんとも不思議な感じだし、ある意味幸せなことなのかもしれないなあと思いつつ。

 

アニメは2クール目を前に凄惨な展開を迎えていますが、どうかみんな幸せになってくれ……いや靖子脚本にそれを願うのは無理筋なんだけど、誇り高い生き方と死に方を選んでほしいなと思うばかりです。楽しみ。

 

2018年に観た映画やドラマや舞台の話

さて、2018年のまとめ。そんなに数を観ている方ではないんですが、今年印象に残ったものを。

ドラマに関しては、観劇で土日家を空けていることが多かったので、そんなに本数は観られなかったんですけども。

映画はともかく、舞台に関しては半分鈴木拡樹の話です。敬称略。

 

 

【映画】

2018年観た映画で印象深いもの(順不同)
●バーフバリ2
否定と肯定
ペンタゴン・ペーパーズ
君の名前で僕を呼んで
ゲッベルスと私
万引き家族
●若おかみは小学生
カメラを止めるな!
ボヘミアン・ラプソディ
リメンバー・ミー
グレイテスト・ショーマン
アベンジャーズIW
デッドプール2

 ●僕のヒーローアカデミア劇場版
パンク侍、斬られて候
累-かさね-
パパはわるものチャンピオン
ブラックパンサー

●ファンタビ2

キングスマンゴールデンサークル

銀魂

 

映画は観に行くもの観に行くもの全部面白くて、今年は当たり年なんでしょうねえ。特に邦画。安藤サクラ松岡茉優は最高でした。累は舞台で観たい。

あと個人的に毎年ナチス映画枠があるんですが、「ゲッベルスと私」は、ゲッベルスの秘書としてあの時代に生きていた「普通の人」の証言として、物凄く衝撃的だった。私もあの時代にあの場所に生まれていたら、同じような選択をし得るっていう恐ろしさ。彼女の友人だったユダヤ人の女性は貧困にあえいだ挙げ句収容所のガス室で亡くなり、彼女は映画でそれを告白するという現実に打ちひしがれた作品。記録映画として秀逸だったのではないかと思います。「否定と肯定」はイギリスで実際に起こされた「ナチスユダヤ人虐殺はなかった」という裁判に対して、どう否定してゆくかを描いたノンフィクション。法廷闘争ものとしても大変おもしろかった。

あと、マーベルものは鉄板の面白さですねえ。ブラックパンサーは音楽がとにかく好き。そしてサノス許さん。

ファンタビ2はジョニデとジュード・ロウがたまらなく良かった。

ファンタビとボヘミアン・ラプソディはもう一度観に行きたいんだけど、時間あるかなあ……。

 

【ドラマ】

風雲児たち

●隣の家族は青く見える

●アンナチュラ

●コンフィデンスマンJP

モンテ・クリスト伯

おっさんずラブ

●dele

●獣になれない私たち

 

単発ドラマを録画したまま溜めてるので、主に連ドラで、しかも見たもののみですが。

今年も圧倒的野木亜紀子イヤーだったなあと思います。安心と信頼と鬱展開の野木亜紀子。特にアンナチュラルは好き過ぎて辛い。続編が観たい。死者の声なき声を聞く監察医ものは大好きなんですが、そこに法廷ものを絡めてきてバリエーションを出しているのが流石だなあと。

野木作品に限らずなんですが、今年は死の色の濃い作品が多かった印象。死じゃなければ別の形で生まれ変わるか。世相でもあるし、平成という時代の死に立ち会う私達に向けて新しい生が拓かれているという希望の現れなのかはわかりませんが。

コンフィデンスマンJPはコンゲームものですけど、長澤まさみのコスプレが毎回楽しかったです。これも毎回別人を演じて生まれ変わる要素があるなあ。

ラストで1話に戻る構成といい、古沢良太の職人芸に唸った作品でした。映画楽しみです。

deleは山田孝之菅田将暉の凸凹コンビ感と、1話ごとに話の雰囲気の変わるオムニバス感で引きつけられた作品で。こちらは死者の残したデータを消す仕事の話なんだけど、そこを軸に生を描く逆説的な展開が素晴らしかった。

おっさんずラブに関しては、ドラマを見ながら、自分の中のLGBTに対する差別感情を鏡写しにされているような居心地の悪さを感じたという不思議な作品でもあった気がします。でも、役者が実力派ばかりなので、キツい展開でも説得された感があり。過渡期の作品なんだろうなとは思うんだけど、私個人的には牧くんに幸せになってほしかったので良かったです……。はるたんはめちゃくちゃ愛されてくれ。

 

【舞台】

観たものをざっと挙げていくと。

●髑髏城の七人season月 上弦の月(LV)

●髑髏城の七人season月 下弦の月

●宝塚版ポーの一族(LV)

●少年社中「ピカレスク★セブン」

マタ・ハリ

●TEAM NACS「PARAMUSHIR ~信じ続けた士魂の旗を掲げて 」(LV)

●舞台「黒子のバスケIGNITE-ZONE

●朗読劇「私の頭の中の消しゴム

●ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」"最強の場所(チーム)"

●舞台はたらく細胞(配信)

●舞台家庭教師ヒットマンREBORN!(LV)

●柿喰う客「俺を縛れ」

●ミュージカル「マリーゴールド

●No.9~不滅の旋律~

魔界転生

●日本の歴史

●江戸は燃えているか

NODA・MAP「贋作・桜の森の満開の下

●メタルマクベスdisc3

●舞台『刀剣乱舞』悲伝 結の目の不如帰

●真剣乱舞祭2018(LV)

 

我ながらとりとめがなさすぎて笑うんですが。

個人的には「贋作・桜の森の満開の下」はブログにも書いてますが、観られて良かったなあと思います。あと、「ポーの一族」は明日海りおのエドガー力が高すぎて目眩がしました。美しかった……。続編が観たいです。

「PARAMUSHIR」はスタイリッシュさと泥臭さの塩梅が凄く好みで、実はTEAM NACSの本公演を観るのが初めてだったんですけど、せめて「悪童」くらいから観ておけば良かったと大後悔。ポツダム宣言後に起こったソ連軍との戦いの話なんですが、安田顕の悲しみがとても印象的でした。

 

そしてそして。

2018年(正確に言うと2017年末からですが)は私にとって鈴木拡樹イヤーでもありました。「髑髏城の七人下弦の月」「舞台刀剣乱舞 悲伝」「私の頭の中の消しゴム」「いんぷろby拡樹」「No.9」と一気に駆け抜けたら1年が終わっていたという、恐ろしい状況に。

決定的だったのは「髑髏」と、円盤で観た「三人どころじゃない吉三」(2016)だったのですが、

natalie.mu

この年末に公開されたこちらの対談を読んで、髑髏と三人~がつながっていたことに感謝しつつ。天魔王を演っていなければ私はこんなに沼落ちはしていなかったと思うんだ……キャスティングの神様に感謝ですよ……。感謝なのか? いや感謝か。お金は貯まらないけど!(笑)蘭兵衛も観てみたさはあるんだけど、捨之介も合うんじゃないかなあと。いや一番観たいのは「蛮幽鬼」のサジと名乗る男だし、もっと言うならば当て書きされた新作なんですけども。

 

何度かブログにも書いてますが、鈴木さんについては舞台弱虫ペダル(主にLV)で観てはいたものの、はっきり「なんかすごいな?!(特に殺陣)」と思ったのは刀ステ虚伝初演のLVで。以後、再演からは劇場のチケットが取れたので、悲伝まで全て劇場で観ることが出来ました(ただし悲伝は福岡の上演中止回に引っかかりましたが)。

 

悲伝に関しては上記ツイートのような結論。でも、悲伝の三日月は髑髏なくしては演じられなかったと思うし、髑髏で見せてくれた天魔王は、今から思い返してみれば、とても鈴木さんらしい、生真面目で不器用で奇妙に掴みどころがなくて、もし殿の幻影に囚われていなければ天下をも狙えていたかもしれない可能性を秘めた存在だったな、と思う。

そこから一気に「普通の人」であるベートーヴェンの弟・ニコラウスを演じることになって、しかも刀剣乱舞の映画とドラマの撮影とどろろのアフレコを挟んでいるから、今年要求された振り幅って実はかなりバラエティに富んでると思うんだけど、1つずつハードルをクリアしていく様子を見ているのは実に楽しいなと。

ということで、これまでやらないようにしていた複数回観劇のハードルが無くなって色々大変ですが、楽しい1年でした。

 

なんでこんなに急激に沼に落ちたのか自分でもよくわからないんですが、多分ふわっとした外見と、刀のような内面のギャップなんでしょうねえ。実をいうと、鈴木さんの演技を観ていて、一番感じるのは「怖い」なんですよ。

なので、御本人のイメージとしては、鞘に包まれた刀というか、抜身になった本性が垣間見える瞬間の鋭さというか、そこにぐいっと引っ張られたんだろうなと思います。だから、三日月宗近は当たり役だなと思うし、天魔王も鈴木さんの持つ性を引き出した役なんだろうなと。ニコラウスはバックラッシュ的な部分があって、この辺りは御本人が役を呼ぶのか、役が役者を呼ぶのか。バランスとして面白いですねえ。

 

そして個人的に、映画刀剣乱舞山本耕史と接点が出来たというのがとても喜ばしくて。新選組!のときに、まだ若いキャスト達が浴びたマスコミからのバッシングが物凄くて、放送前から楽しみにしていた私はかなりマスコミ不信になっていたんですが、新選組!キャストは見事にそれを乗り越えて、大河ドラマで初めて続編が作られるっていう快挙を成し遂げたんですよね。そのときの状況と、今の2.5をメインとしている役者達の状況はとても似ているんではないかというのがあって。

過去と未来がつながる瞬間を見られたようで、とても嬉しかったんですよ。

どうか末永く続いてくれますように。そして板の上で共演するのを観たいです。実際に髑髏の花蘭と下弦天なので、同じ板には立っているわけですが。映画楽しみだなあ……。

 

同じことを感じたのが、「マリーゴールド」に出演していた田村芽実なんですが。めいめいは美しく装飾された銀のナイフで、抜いたら刃物に毒が塗ってあるイメージ。恐るべき20歳。

めいめいがレミゼのファンテーヌやってくれるのを待ってるよ!

 

来年はNo.9の久留米公演からの映画刀剣乱舞と「画狂人・北斎」、そして少年社中「トゥーランドット」福岡公演観劇で幕を開けます。

とりあえずどろろやらTRUMPシリーズの新作やらですでに6月くらいまで予定が決まりつつありますが、来年も楽しく過ごせるといいな。

 

せっかくブログ更新を再開したので、これからもちょいちょい更新していこうかと思っていますので、お時間があるときにでもお付き合いください。平成最後の年末年始が穏やかなものでありますよう。

 

では、皆様良いお年を!

「日本の歴史」2018年12月8日世田谷パブリックシアターマチネ感想

www.siscompany.com

 

2018年最後の観劇は、「日本の歴史」東京からの「No.9」大阪公演に大移動というなかなか面白いことになってたんですが。

 

まだ大阪公演があるので、ネタバレ踏みたくない方は以下を絶対に読まないでください。敬称略。

 

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ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」"最強の場所(チーム)"2018年11月10日マチネ

気がついたら平成最後の冬が暮れようとしていますが、11月の観劇記録を今更書いてます。

ということで。

 

実は「ハイステ」に関しては2作目から全部劇場で観ていたんですが、今回烏野高校キャスト卒業ということで、最後まで見届けようと車で広島へ。

……と思ったら、出発前に車のタイヤがパンクして肝が冷えました。ありがとうスペアタイヤ。ありがとう助けてくれたガススタのおじちゃん。

以下敬称略。

 

原作についてはコミックで追っていて、流れとしては頭に入っているんだけど、ハイステは演劇としてのアレンジを入れつつの展開以上に、とにかく試合シーンが大好きで。

個人的に、スポーツものは2.5次元舞台の華であり、商業演劇としての強みでもあり、その最たるものがジャンプ漫画原作の舞台化だと思っているんですが、ジャンプ生まれの「テニミュ」と違って、ハイステはダンスはあってもミュージカルじゃないんですよね。ストレートプレイの文法で、和田俊輔さんの各学校ごとに曲調が見事に違う楽曲に合わせたダンスショー的な要素も持ちつつ、「バレーの試合」描写に全力をかける若手キャスト達の姿を観るのはとても楽しくて。

 

キャリアとしてはベテランの部類に入る須賀健太座長のもと、何度かメンバーの入れ替わりもありつつ、毎回引き締まった試合を見せてくれる烏野高校キャストが大好きでした。

色々感慨深くて言葉にならないんだけど、観ていて特に印象に残っている烏野キャストは、橋本祥平の西谷、木村達成の影山、そして公演を重ねるごとに存在感を一気に増した小坂涼太郎の月山。いや、みんな好きなんだけどね。要所要所できちんと締める須賀翔陽の周りで光るキャストはとてもキラキラしていて、おそらく体力の限界までやっているであろう試合の臨場感も相まって、毎度泣かされて。

特に今回、烏養監督の「下を向くんじゃねぇ バレーは常に上を向くスポーツだ」が聞けたので、そこではぼろっぼろでした。ここまでたどり着いたんだなあ。

 

特に今回、音楽の和田さんがもうひとりのキャストとして舞台裏に控えていたこともあって、役者の動きと音楽が半端ないシンクロ率でピタっと合ってたんですよね。生演奏に合わせて動くシーンの臨場感は素晴らしかった。でも歌で表現するわけじゃないところが、ハイステのハイステらしさなんだろうなと。

 

烏野高校キャストと戦う青葉城西、白鳥沢学園のメインキャストもずっと継続してくれたから、これまで作り上げられてきたハイステの世界を維持しつつ、熱い試合を展開してくれて良かったなあ。

ハイステの好きなところに、試合終了後、敗北チームが観客席に礼をして、観客が拍手を送るっていう一連の流れがあって。

長く続くシリーズだから出来た慣例だと思うんだけど、ここまで到達したことにも胸熱でした。

 

そして須賀健太ですよ。誰よりも華やかで泥臭い日向翔陽は、たとえ舞台の端にいようと、つい視線を向けてしまう強烈な存在感が常にあったんだけど、今回は本当に観ているこちらの胸が痛くなるような体力ギリギリの演技が要求されたと思うので、祈るような気持ちだったなあ。素晴らしかった。毎回宙乗りがあるんだけど、演劇的表現としてとても好きです。

 

とりとめなくなってしまったけど、やっぱり烏野高校キャスト卒業は正直寂しいです。でも、キャスト変更の次に紡がれる物語で、どんな彼らが観られるのかが楽しみでもあるので、今後の展開も期待してます。

 

余談ですが、今回、なんの偶然か、最上手の前から2番目の座席でした。今年髑髏に続いて2回目ですよ……最後の最後ですごい席が来たなあ。間近で観た彼らは、どうしようもなく愛しいバレーボール馬鹿達でした。本当にありがとう。

 

「No.9-不滅の旋律-」2018年11月17日マチネ感想

さて、長い上に推しの話メインになると思うので、吾郎ちゃんファンの方にまず謝っておきます。ごめんなさい。そしてネタバレ全開なのでお気をつけて。

 

 

 

 

 情報解禁されたときに、「え、鈴木拡樹が稲垣吾郎の弟役?!」というのにまずびっくりしたんだけども。しかも、初演は物凄く評価の高かった音楽史もののストレートプレイの再演。さらに、中島かずき脚本・白井晃演出。

 

 そう、白井晃さん。役者としての白井晃さんは、ことごとく、私の人生を変えたような作品(「王様のレストラン」「国民の映画」あたり)に役者として出ているんだけど、実は演出作品というのは観劇したことがなかったのですよ。

 ただ、話を聞いたときに、物凄く漠然と「鈴木さんの演技スタイルと合ってるのでは?」と感じていて、実際に観てからの感想も「うん、合ってるわ!」だったので、最初に話を聞いたときに受ける印象ってそんなに外れないんだなあと。

 

 とにかく、精緻で繊細。隅々まで行き届いていて、舞台のどこを観ても素晴らしく美しくて。

 役者の演技から美術、2台の生ピアノと合唱で奏でられる、三宅純音楽監督により華を添える音楽まで、とにかく隙がない。すごい。

 かといって堅苦しいものでもなくて、エンタメとしても楽しめて、泣いて笑って息詰まる展開を経験出来るバランス感覚ときたら。

 

www.no9-stage.com

 

 一幕ではフランス革命以降、ナポレオンの台頭と帝政を敷いたことから始まるウィーン侵攻とともに変化する時代と、ベートーヴェンが徐々に聴覚を失っていく過程を絡めつつ、そして二幕では完全に聴覚を失い、それとともに精神のバランスを欠いていき、周囲との軋轢が決定的になる姿から、秘書であり同志でもあるマリアの支えも描きつつ、圧巻のラストシーンへと突き進む、そのドライブ感と熱量が凄まじくて、ただただ圧倒されっぱなしだった。本当に、何度も上演されるべき名作だと思う。

 

 何より、主演・稲垣吾郎ベートーヴェンそのもので、普段には聞かない、よく響く低い声と、情熱を全て叩きつけるような圧巻の演技が物凄く印象的だった。稲垣吾郎にあてて書かれた脚本と相まって、ひたすら目を奪われた。

 長く国民的アイドルとして時代とともにあって、私個人は稲垣吾郎出演作品だと映画「笑の大学」やドラマ「二十歳の約束」あたりが印象深いんだけど(あと踊るとか、癖のある役は特に好き)、2年前、あまりにも信じがたい色々を見ることになってしまって、私自身もテレビを取り巻く状況に失望してしまったところがあるのだけれど。

 でも、それがあったからこそ、今、こうして板の上に立つ稲垣吾郎を観ることが出来たっていうのは、メタ的なんだけど、とても不思議な感覚だった。

「ああ、本当に存在しているんだ」と思ったんですよ。しかも、力強く、偏狭だけれど情熱的で、でもどこか脆い、まさにベートーヴェンとして板の上に立つ稲垣吾郎は、紛れもなくこの物語の主役だった。そのことに、とても安堵したりして。

 あんなに酷いことがあってもなお、まだこの世界に残ってくれていたことに、心から感謝した。ありがとう吾郎ちゃん。

 

 そして、ヒロイン役でもあり、ベートーヴェンの恋人ではなく、あくまでも同志であるという立場を貫く剛力彩芽のマリアの、凛とした強さがまた良くて。

 剛力彩芽はもっと舞台に出てほしい。とても存在感のある演技で、何より華があって。

 ベートーヴェンを取り巻く人々、ピアノ職人ナネッテ(村川絵梨)とアンドレアス(岡田義徳)の夫婦、メトロノームベートーヴェンにもたらすメルツェル(片桐仁)、ベートーヴェンを支えるカスパール(橋本淳)とニコラウス(鈴木拡樹)の二人の弟、やがて生まれる甥のカール(小川ゲン)、そしてベテラン勢まで、とにかくキャストにも全く綻びがなくて、安心して観ていられるのは勿論、うまい役者達のセッションを存分に楽しむことが出来るって、本当に幸せなことだなと。

 

 実はまだ大阪と久留米の公演を観に行くので、総括的な感想はまた後日アップすると思うんだけど、鈴木ニコラウスについて。

 

 ニコラウスは鈴木拡樹が演じるのは、自称天魔の御霊でもなく刀の付喪神でもなく、(朗読劇以外では)多分久しぶりなんじゃないかという普通の人。兄を愛し、好きな女性が出来、けれども天才肌の兄とは亀裂が生じ、最終的には袂を分かつ。それでも、最後まで兄に対する敬愛の情は捨てきれない、普通の、普通の人。

 なんだけど、ニコラウスにはその横軸のキャラクターとは別に、時間の経過を体現するっていうなかなかにヘビーな役割があてられているようで。

 というのも、作中で時間が多分30年近く経過するんだけど、大体経過して最初のシーンに絡んで出てくるのがニコラウスで、その度に容姿が違うし、何より声の高さが徐々に年齢を経たものに変化していくっていう、下手を打てば時間経過が混乱しかねない(しかも二幕にそこを利用した仕掛けもあることを考えると)縦軸部分を担っていて、それは役の人生と絡めつつも、絶対に演じ分けないといけない課題のようなものだと思ったんですね。

 で、私が観た11月17日時点で、その縦軸に関しては申し分なく表現されていると思ったし、鈴木さんは老け役うまいよなあと改めて感じたわけですが。

 ただ、横軸の部分、ニコラウスのキャラクターについて、何かを慎重に模索している風に感じられたんですね。まだ序盤だっていうこともあったと思うんだけども。とてもチャーミングな、優しい性格の弟だと思ったんだけど、本人はまだその位置に納得していない風な何かを感じて。

 だから、このときに私が観たニコラウスは、今ではもう違うものになっているのかもしれないし、大楽ではもっと違っているのかもしれない。

 今回は中盤の大阪公演と、久留米大楽が観られるので、その辺りの変化も楽しみにしようと思っています。

 

 正直なところ、次の再演で、鈴木さんがニコラウス役をもう一度やるとはあまり思えなくて。というのも、初演が加藤和樹さんだったのもあって、二人の兄弟役は再演を重ねる度に変わるようなポジションなんじゃないかなと感じたんですね。稲垣ベートーヴェンが不動だからこそ変化を求めそうな座組というか。

 だからこそ、大楽でどんなニコラウスになっているのか楽しみにしつつ、奇跡の再演を満喫したいと思います。

 

 推しが面白い作品に連れてきてくれるって、最高の喜びだなあと改めてしみじみしつつ、12月は慎吾ちゃんの「日本の歴史」からの大阪「No.9」のハシゴです。まるで新地図担のようなムーブだ。

「魔界転生」2018年10月27日博多座マチネ・2018年11月17日明治座ソワレ感想

こちらは日テレ制作で堤幸彦演出・マキノノゾミ脚本という、超エンタメ時代劇。

一緒に観劇した友人から真田十勇士の話を聞いていたので、ようやく観られたんですが。

博多座観に行ってすぐにチケット増やしましたね……いやー怖いわー。

 

 遥か昔に沢田研二が出ていた映画版をテレビ放映のときに観てるはずなんだけど、何しろ昔過ぎて覚えてない&原作も読んでないっていう状態で観に行ったんだけど、むしろ昔の知識はなくて正解かもしれないし、真田十勇士観ておけば良かったっていう後悔の方がデカいっていう。

makaitensho.jp

 

 あらすじについてはこちら参照なんだけど、上川隆也の時代物は本当にいいねえ……上川さんの重さも軽みも自由自在な演技と殺陣が素晴らしくて、あの華はどこから生まれるんだろうと見入ってしまったし。

 

 なにより。松平健様ですよ。上様ですよ。

抜刀する、刀を構える、その姿だけで強そう。美しい。無駄がない。

 重厚な太刀筋に、年齢を全く感じさせない速さ。

 クライマックスの上川さんとの殺陣対決は息を呑むしかなかった。震えた。

あまりに格好良くてしびれました。本当に寿命が伸びる……いいものを観た……。

 

 知識がない状態なので昔の作品と比べることは出来ないんだけど、浅野ゆう子高岡早紀の間に生まれるシスターフッド的な連帯とか、現代的にアップデートされている部分もあって、すとんと心に落ちてきたんですよね。多分、いい塩梅のアレンジなんじゃないかなーと思っていて。スプラッタ感は満載なんだけど。

 

 そして2.5から飛び出してきた若手俳優陣の中では、特に村井良大・玉城裕規の二人が印象的で。軽妙な、それでいて過去の重さを滲ませる村井くんの演技の上手さはどこか上川さんに通じるものがあったし、悲劇の復讐者でありながらどこか道化者めいた雰囲気を醸し出す玉城くんは、殺陣の見せ場も多くて大変見応えがありました。

 ベテランが若手を見守っている雰囲気があって、その辺も良かった。溝畑くんは、妖艶というよりは実直で誠実であるがゆえに道を誤ってしまった天草四郎といった趣で、どこか清潔な感じだったのも面白かった。

 

 堤幸彦演出については、個人的に映像作品だと合うもの合わないものが半々くらいで、実はちょっとビクビクしながら観た部分があるんだけど、さすがというかなんというか、生身の役者達との演技と映像効果がハイブリッドな融合を果たしていて、凄く面白い効果だったなあ。映像をやってきた人の発想じゃないと出来ない演出だと思うし、だからといって演者の熱演を邪魔するものではないし。スクリーンの移動で効果を見せるのが気になるときもあったんだけど、映像ならではの臨場感もあっていいかなと。殺陣の凄さにうまく上乗せされていたように見えた。

 

 多分、劇団☆新感線と文脈としては比較対象になるんだろうけど、アプローチは真逆というか、新感線は舞台作品ベースの考え方が根底にあるし、堤演出は映像作品ベースの考え方が根本にあるんだろうなっていうのも感じて面白かった。

 私はこういうアプローチの仕方、好きです。

 

 今後も新作を継続して作って欲しいなあ。今度はちゃんとチケット早めに取ります……(笑)