ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

「No.9-不滅の旋律-」2018年11月17日マチネ感想

さて、長い上に推しの話メインになると思うので、吾郎ちゃんファンの方にまず謝っておきます。ごめんなさい。そしてネタバレ全開なのでお気をつけて。

 

 

 

 

 情報解禁されたときに、「え、鈴木拡樹が稲垣吾郎の弟役?!」というのにまずびっくりしたんだけども。しかも、初演は物凄く評価の高かった音楽史もののストレートプレイの再演。さらに、中島かずき脚本・白井晃演出。

 

 そう、白井晃さん。役者としての白井晃さんは、ことごとく、私の人生を変えたような作品(「王様のレストラン」「国民の映画」あたり)に役者として出ているんだけど、実は演出作品というのは観劇したことがなかったのですよ。

 ただ、話を聞いたときに、物凄く漠然と「鈴木さんの演技スタイルと合ってるのでは?」と感じていて、実際に観てからの感想も「うん、合ってるわ!」だったので、最初に話を聞いたときに受ける印象ってそんなに外れないんだなあと。

 

 とにかく、精緻で繊細。隅々まで行き届いていて、舞台のどこを観ても素晴らしく美しくて。

 役者の演技から美術、2台の生ピアノと合唱で奏でられる、三宅純音楽監督により華を添える音楽まで、とにかく隙がない。すごい。

 かといって堅苦しいものでもなくて、エンタメとしても楽しめて、泣いて笑って息詰まる展開を経験出来るバランス感覚ときたら。

 

www.no9-stage.com

 

 一幕ではフランス革命以降、ナポレオンの台頭と帝政を敷いたことから始まるウィーン侵攻とともに変化する時代と、ベートーヴェンが徐々に聴覚を失っていく過程を絡めつつ、そして二幕では完全に聴覚を失い、それとともに精神のバランスを欠いていき、周囲との軋轢が決定的になる姿から、秘書であり同志でもあるマリアの支えも描きつつ、圧巻のラストシーンへと突き進む、そのドライブ感と熱量が凄まじくて、ただただ圧倒されっぱなしだった。本当に、何度も上演されるべき名作だと思う。

 

 何より、主演・稲垣吾郎ベートーヴェンそのもので、普段には聞かない、よく響く低い声と、情熱を全て叩きつけるような圧巻の演技が物凄く印象的だった。稲垣吾郎にあてて書かれた脚本と相まって、ひたすら目を奪われた。

 長く国民的アイドルとして時代とともにあって、私個人は稲垣吾郎出演作品だと映画「笑の大学」やドラマ「二十歳の約束」あたりが印象深いんだけど(あと踊るとか、癖のある役は特に好き)、2年前、あまりにも信じがたい色々を見ることになってしまって、私自身もテレビを取り巻く状況に失望してしまったところがあるのだけれど。

 でも、それがあったからこそ、今、こうして板の上に立つ稲垣吾郎を観ることが出来たっていうのは、メタ的なんだけど、とても不思議な感覚だった。

「ああ、本当に存在しているんだ」と思ったんですよ。しかも、力強く、偏狭だけれど情熱的で、でもどこか脆い、まさにベートーヴェンとして板の上に立つ稲垣吾郎は、紛れもなくこの物語の主役だった。そのことに、とても安堵したりして。

 あんなに酷いことがあってもなお、まだこの世界に残ってくれていたことに、心から感謝した。ありがとう吾郎ちゃん。

 

 そして、ヒロイン役でもあり、ベートーヴェンの恋人ではなく、あくまでも同志であるという立場を貫く剛力彩芽のマリアの、凛とした強さがまた良くて。

 剛力彩芽はもっと舞台に出てほしい。とても存在感のある演技で、何より華があって。

 ベートーヴェンを取り巻く人々、ピアノ職人ナネッテ(村川絵梨)とアンドレアス(岡田義徳)の夫婦、メトロノームベートーヴェンにもたらすメルツェル(片桐仁)、ベートーヴェンを支えるカスパール(橋本淳)とニコラウス(鈴木拡樹)の二人の弟、やがて生まれる甥のカール(小川ゲン)、そしてベテラン勢まで、とにかくキャストにも全く綻びがなくて、安心して観ていられるのは勿論、うまい役者達のセッションを存分に楽しむことが出来るって、本当に幸せなことだなと。

 

 実はまだ大阪と久留米の公演を観に行くので、総括的な感想はまた後日アップすると思うんだけど、鈴木ニコラウスについて。

 

 ニコラウスは鈴木拡樹が演じるのは、自称天魔の御霊でもなく刀の付喪神でもなく、(朗読劇以外では)多分久しぶりなんじゃないかという普通の人。兄を愛し、好きな女性が出来、けれども天才肌の兄とは亀裂が生じ、最終的には袂を分かつ。それでも、最後まで兄に対する敬愛の情は捨てきれない、普通の、普通の人。

 なんだけど、ニコラウスにはその横軸のキャラクターとは別に、時間の経過を体現するっていうなかなかにヘビーな役割があてられているようで。

 というのも、作中で時間が多分30年近く経過するんだけど、大体経過して最初のシーンに絡んで出てくるのがニコラウスで、その度に容姿が違うし、何より声の高さが徐々に年齢を経たものに変化していくっていう、下手を打てば時間経過が混乱しかねない(しかも二幕にそこを利用した仕掛けもあることを考えると)縦軸部分を担っていて、それは役の人生と絡めつつも、絶対に演じ分けないといけない課題のようなものだと思ったんですね。

 で、私が観た11月17日時点で、その縦軸に関しては申し分なく表現されていると思ったし、鈴木さんは老け役うまいよなあと改めて感じたわけですが。

 ただ、横軸の部分、ニコラウスのキャラクターについて、何かを慎重に模索している風に感じられたんですね。まだ序盤だっていうこともあったと思うんだけども。とてもチャーミングな、優しい性格の弟だと思ったんだけど、本人はまだその位置に納得していない風な何かを感じて。

 だから、このときに私が観たニコラウスは、今ではもう違うものになっているのかもしれないし、大楽ではもっと違っているのかもしれない。

 今回は中盤の大阪公演と、久留米大楽が観られるので、その辺りの変化も楽しみにしようと思っています。

 

 正直なところ、次の再演で、鈴木さんがニコラウス役をもう一度やるとはあまり思えなくて。というのも、初演が加藤和樹さんだったのもあって、二人の兄弟役は再演を重ねる度に変わるようなポジションなんじゃないかなと感じたんですね。稲垣ベートーヴェンが不動だからこそ変化を求めそうな座組というか。

 だからこそ、大楽でどんなニコラウスになっているのか楽しみにしつつ、奇跡の再演を満喫したいと思います。

 

 推しが面白い作品に連れてきてくれるって、最高の喜びだなあと改めてしみじみしつつ、12月は慎吾ちゃんの「日本の歴史」からの大阪「No.9」のハシゴです。まるで新地図担のようなムーブだ。