ゆうきさらのほんよみにっき@はてブロ

はてなダイアリーから引っ越しました。ゆうきさらが読んだり見たりしたものを気ままにつづります。

舞台どろろ 2019年3月20日福岡ももちパレス、3月23日三重文化会館大ホール

あけましておめでとうございます。なんと今年初めての更新なんですが、1月に映画刀剣乱舞が公開されてから延々映画館に通ってました&副鼻腔炎でぶっ倒れてたら回復するのに異常に時間がかかりました……なんてこった。

 

ということで、今年もマイペースに更新する&忘れた頃に感想をアップするので、よろしくお願いします。

 

www.dororo-stage.com

 

そんなこんなで、現在アニメも絶賛放送中の、舞台どろろを観てきました。

 

以下ネタバレあるよ! お気をつけて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内容的にはアニメ準拠、台詞も醍醐関係は同じものも多かったのですが、展開が違うのと、今回は百鬼丸のアニメ版CVも舞台版百鬼丸も鈴木拡樹さんということで、何が楽しいって演技面での比較が出来るのが。

 

同じ役者が表現する同じキャラクターなんだけど、喩えれば、一枚の画像をモニタ表示用にRGB3色分解して表示するのと、印刷用にCMYK4色分解した場合に、色味や見え方が変わってくるときのような変化というか。

勿論補正が入るので、同じ百鬼丸ではあるんだけど、舞台版の百鬼丸と、アニメ版の百鬼丸は、展開の順番やキーになる台詞が変わる、何より実際に観客が見るのがアニメのキャラクターか、鈴木さん本人の演じる百鬼丸か、という部分で、同じなのに異なる出力がされていたように思いました。

ベースはアニメどろろとは言え、3時間でまとめる舞台と2クール続くアニメは、まとめ方も違えば百鬼丸を取り巻く共演者も変わるし、アニメ声優としての発声(少年・百鬼丸としてキャラの声を作って発している)と舞台役者としての発声(一番後ろの座席に届けられるように声を張る)の違いの比較もリアルタイムで面白いなと。

 

舞台は一気にアニメどろろのストーリーを駆け抜けた感じではあるんですが、特に醍醐家族のやりとりでの間のとり方がやはり舞台的で、むしろアニメの方が一気に駆け抜ける感じになるんだなと、今週放送された12話を見てから思ったり。

 

もっとも、鈴木さんは大千秋楽の挨拶で、「舞台とアニメで全く違う百鬼丸を演じた」という旨のことを話していたのと、舞台はどろろの背中の謎については一切触れていなかったので、これからの展開は大きく変わってくるのかな、と思いつつ。

 

舞台どろろについては、あまりにもインパクト強かったのが鈴木さんの百鬼丸としての演技で。

目が見えない、耳が聞こえない、話すこともできない。義手義足で歩き、動かない義眼をはめた眼球は何も写していない。まばたきすらしない。

……というのを身体表現として板の上で演じる姿は、周囲の役者との差も相まって、まさに異形の存在でした。

 いうなれば、これは鈴木拡樹にとっての「奇跡の人」で、ヘレン・ケラーなのかもしれないなと。

 声を取り戻してからの発語も、顔の筋肉が発語用に鍛えられていないが故のぎこちなさを感じられるもので、正直めちゃくちゃ圧倒されました。なんだこれ。私はいったい何を見たんだ。

そして、なんだか存在感がすごい。気配を消しているときはわからないんだけど、ピンスポ浴びる前からそちらに目が向いてしまう。百鬼丸は決して派手な外見ではないのに、暴力的なまでの華は一体どこから来るんだろう。

そしてマチネよりさらに早くなるソワレの殺陣。体力おばけかな???

百鬼丸は得物が腕の仕込み刀なので、泥臭いアクション系の殺陣がついてましたが、基礎体力と運動神経の良さがよくわかりました。ジャンプの滞空時間が長い。

 

ゲネプロの動画が演劇系ニュースサイトからアップされていたので、実際に見た方がわかりやすいとは思うのですが。

 

search.yahoo.co.jp

 

私事ですが家族に中途の盲ろう者がいて、百鬼丸とは反対に視覚と聴覚を失っていったんですが、赤子の百鬼丸を助け、義手義足を与えて育てた寿海が、地面に書いた「百鬼丸」という名前を、手のひらで辿って自分の名前を覚えるシーンで号泣しましたよ……。家族とまさにそういうコミュニケーション(基本は手のひらに指文字ですが)しか取れないので、きっと寿海は根気強く、百鬼丸に単語を教えていったんだろうと思うと。サリバン先生とヘレン・ケラーのシーンを思わせるような美しさでした。

リアルに身内にいるだけに、動きの生々しさが余計自分に刺さって、目を背けたくなるくらいでした。一体どれだけ調べたんだろうなあ。ここまで表現出来るのか、と打ちのめされた気持ちです。本当にすごかった。

寿海とのシーンはどれも互いへの想いに溢れていて切なく美しくて、場面のたびに泣いていたという……。

 

以下、印象的だった役者さん。

どろろ役の北原里英さん。ここのところ、田村芽実生駒里奈とアイドルから役者への転身を果たしつつある女優さんを観る機会が多いんだけど、とても陽性ないい役者さんだなあと。辛い想いを沢山したけれど、でもしなやかにしたたかに生きる、明るくて一途で強くて元気などろろがとても眩しくて、重い物語の癒やしでした。やっぱり目を引くからこそのアイドルなんだなあとしみじみ。アザだらけの手足が、努力の証なんだろうなとしみじみしました。

これからも色々な役でお目にかかりたい女優さんです。

 

多宝丸役の有澤樟太郎くん。刀ミュ幕末で初めてお目にかかって、それから少し間が空いて、「らぶフェス」をライビュで、「七つの大罪Stage」を配信で、「トゥーランドット」を劇場で観ました。役者としてめちゃくちゃ伸びていてとても将来が楽しみなんだけど、トゥーランドットのときにどこか遠慮しているような雰囲気を感じて、その屈託は何なんだろう、と不思議だったんですね。

でも舞台どろろでは、生真面目でそれ故に国と兄の間で悩み続ける多宝丸を、とてもいい立体感をもって演じていて。

後半の見せ場の一つ、百鬼丸と多宝丸の対決シーンの殺陣もすごく良くて、福岡と三重の短い間でもさらに進化していたので、今後の成長がとっても気になります。いい役者さんになってほしい。

大千秋楽の挨拶で、嬉しそうな、そしてとても寂しそうな、感無量といった表情をしていたのが印象的でした。クールなイメージがあったんだけど、きっといい座組だったんだろうなと。

 

賽の目の三郎太役の健人くん。刀ステ以降好きな若手の一人なんですが、大千秋楽ソワレ、鵺に取り込まれた三郎太が吠えた瞬間、座組全員に大楽ブーストがかかったのが見えた気がしました。すごかった。一声で空気を変えられる役者なんだなと改めて。

しかし闇落ちの似合う役者さんだなあ。本人はカラッとした感じの雰囲気なのに、闇をまとった瞬間に見えてくる艶はなんなんだろうなと。

からくりサーカスでもアシハナさんやってますが、俄然そっちも観てみたくなった。

 

そして醍醐夫婦、唐橋充さんと大湖せしるさん。飄々とした琵琶法師の赤塚さんと、百鬼丸を愛情をもって支えた寿海の児島さんもですが、皆さん技術に裏打ちされた、どっしりとした演技で、舞台どろろに重厚感を与えていたんじゃないかなと。唐橋さんの醍醐には最後めちゃくちゃ泣かされた。そしてせしるさんの新嘗祭の踊りが夢のように美しかったなあ……。

百鬼丸が超えるべき父・醍醐景光と、愛を与えてくれる父・寿海の対比も鮮やかで良かったです。手塚作品っぽい実父に対するエディプス・コンプレックスと育ての父の愛だなと思わされた。鉄腕アトムの天馬博士とお茶の水博士もこの類型だよなあと。

 

助六の田村くん、田之介の影山くんも、出番は決して長くないながらも、印象的な演技とアクション・殺陣で作品を彩っていて。総じて役者の皆さんのバランスがとても良かった気がする。特に影山くんは殺陣が初めてという話だったんだけど、すごく良かったです。今後も殺陣芝居が観てみたい。

 

舞台作品として、役者の熱量が感じられて、何度も観られた上に東京楽を中継してくれたのは本当にありがたいことでした。見返したいときに録画をチェック出来るの最高すぎる。

 

ただ、ちょっと気になったんですが。

私は個人的に西田演出って結構好きだったりするんですけど、どろろに関しては、つけている演出が箱の大きさに見合っていなかったんじゃないかなあと思ったり。

もっと小さい箱で、もっと少ない公演数でやる演出だったんじゃないかな、というのは考えてしまう。

というのも、SSSでも舞台煉獄に笑うでも思ったんですが、アクション専業でなくダンサーも含むアンサンブルキャストが殺陣の相手役もしつつ場面転換用のセットを操作したり、場面転換のときのマジックのような仕掛けや段差の大きいセットを作ることが、20公演以上やる場合に安全性を確保できないんじゃないかと思ったんですね。役者は消耗していきますし、疲労に伴って訓練されていないキャストの危険が上がってくるし。セットも激しい使い方をすれば傷むし。

激しい殺陣を大量に含む演目なだけに、一歩間違えてセットが倒れたりすれば命にも関わる事態になりかねないわけですし。

転落事故で死者が出て、中止になった舞台は残念ですが沢山あります。労働安全衛生規則は守ろうぜ……。

 

ただ、役者の技量と熱量に、全力で心打たれた舞台でした。あの熱を劇場で体験できて、本当に幸せ。泣きまくって翌日目がぱんぱんに腫れたの久々だったよ……。

そして、板の上にしか存在しない百鬼丸たちにもう会えないのに、アニメを見れば同じ声の百鬼丸が喋っているのは、なんとも不思議な感じだし、ある意味幸せなことなのかもしれないなあと思いつつ。

 

アニメは2クール目を前に凄惨な展開を迎えていますが、どうかみんな幸せになってくれ……いや靖子脚本にそれを願うのは無理筋なんだけど、誇り高い生き方と死に方を選んでほしいなと思うばかりです。楽しみ。